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2011年3月30日

 段ボールもチラシもスナックのマッチ箱も、大竹にとっては内側の感情に火をつけるきっかけになるし、のみならず、それらをコラージュの材料にしてしまうこともある。その時、大竹の中に湧いてくるイメージがどんな姿なのかは、やはりわからないのだと言う。

 「衝動が起きて第一歩を踏み出すじゃない。それで手を動かして絵の具を塗っていくと、最初の衝動がどんどん変化していくわけよ。例えば、白から始めて黄色と思っていても、白の垂れ具合を見て、感じることが変わるんだ」

写真:田渕睦深

 「でも、こうやればおもしろくなるとわかって繰り返すと、つまらなくなる。人間って、データを取り出して分析して、先に考えるようになるでしょ。こういう材料を使って、こういう段取りでやれば、こうなるって。だから2枚目は、1枚目を超えられないのよ。アートだけじゃなくて、何についても言えることでさ」

 緻密なプラン、論理的なコンセプト、成功に導くセオリー。それらに基づけば安定感はあるけれど、かえって成果を矮小化させることになりかねない。人間にはむしろ、頭で想定したことを超える何かを生みだすパワーが、その正体はわからないけれど、備わっているのだ。

 その内なるエネルギーが湧いてくるカギは生命力にあると、大竹は言う。

 「創造力ってのは生命力がありき。寝込んでたら3メートル×2メートルの絵を描くぞって気にならないよね。自分で『ここでいいや』ってブレーキをかけるとダメなわけよ。精神的な部分は、歳は関係ないじゃない。70歳でもぶっ飛んでる人はいるし、20歳でもじじいみたいなやつがいるしさ。葛飾北斎は天才の仕事をしたと思うけど、電気も暖房もない時代に長屋暮らしで90歳近くまで生きたという、生命力に感激するよね」

 たしかに、そうだと思う。出会う人や触れる物事の数や質は、好奇心や行動力の裏づけとなる生命力に比例するし、それらの経験に比例して、内面が耕されるはずだ。こうやってつくられる豊かな内面が外界と反応した時に、「こうしたい」という思いが放出されるのだろう。

死ぬまでに絵本を一冊つくんなきゃいけないって
法律があったらおもしろい

 「今の日本なんか、生きてておもしろくないでしょう。規制だらけでグレーゾーンがないし、正しい人しか生きちゃいけないみたいなさ。くそ食らえだよ。男が草食化すりゃ、言いなりになるから女には都合がいいんだろうけど、それだと動物としてつまんねぇんだよ」

 「規制だらけ」も「草食化」も、本来、生命体がもつエネルギーを発揮することとは対極の方向にいくものだから、今の世の中は「遊びの部分」が削られてしまって、生命力も減退していると言うのだ。

 言うだけあって、大竹は溢れるものを感じさせる人だ。絵描きになりたいと美大に入るやいなや、2万円を握りしめて北海道の牧場に向かい、1年間住み込みで働いた。続いて、カネもない、知り合いもいない、言葉もしゃべれない状態で、ロンドンで暮らした。自分に課した困難を乗り越えれば、絵を描いて生きることに近づけると信じていた。


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