放射線 屋内に留まるか車で避難するか

識者に聞く 震災のなぜ


三橋紀夫(みつはし・のりお)
1949年東京都生まれ。放射線腫瘍医。東京女子医科大学「放射線腫瘍学講座」主任教授。群馬大学医学部卒業。日本放射線腫瘍学会理事、日本癌 治療学会理事、日本頭頚部癌学会理事、日本医学放射線学会代議員及び生物部会長等、多くのがん関連学会の委員、役員を務める。著書に『がんをどう考えるか―放射線治療医からの提言』(新潮社)など。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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放射性物質 同じ屋内でも・・・

――福島第一原子力発電所の事故の報道が連日続いています。「最悪の事態は避けられそうだ」「チェルノブイリの事故のような被害にはならない」という見方も出ていますが、あらゆるケースに備えて、今後気をつけるべき点を教えてください。

三橋紀夫教授(以下三橋教授):放射性物質の拡散は風向きなどにとても左右されやすいので、避難や屋内退避のエリアを決定するのは非常に難しいと思われます。ですから、私からはまず政府の勧告に従って行動する際に気をつけるべき点をお話しします。

 コンクリートの建物内では、屋外よりも放射性物質が10分の1程度減るので、屋内退避の場合は極力外出を避けましょう。ただし、木材の家屋では、コンクリートの建物ほど放射線を遮断しませんので、建物の材質も含めて判断したいところです。原子力安全委員会の資料「原子力施設等の防災対策について」によれば、特に対策を講じずに屋外にいる場合の浮遊放射性物質のガンマ線による被ばくの低減係数を1.0とすると、例えば自動車内は屋外と変わらず1.0、木造家屋では0.9、石造りの建物ならば0.6、大きなコンクリート建物(扉及び窓から離れた場合)は0.2以下となります。原子番号の大きいもの (3乗に比例)、密度の高いもの、ならびに厚いものほど、放射線をブロックします。例えば、鉛(原子番号 82) とアルミニウム(原子番号 13)を比較すると、X線やガンマ線の透過率は 鉛では1/250 (133 / 823)となります。

 また、避難する際は、帽子やマスク、タオルなどで口を覆い、放射性物質の取り込みを防ぎます。肌の露出を極力避け、衣服の素材をなめらかなものにすると物質が付着しづらいでしょうし、洋服ブラシで落とすことができます。傷口からも侵入するので気をつけてください。先述の原子力安全委員会の資料によれば、折りたたみ数16の男性用木綿ハンカチを口や鼻を保護すると、除去効率は約94%となりますが、折りたたみ数1の場合は27.5%と効果が下がります。呼吸方法など個人差はありますが、一つ参考になる数値だと思います。

――農作物の出荷制限や水道水から乳児向けの暫定規制値を越える放射性物質が検出されるといったことに対する不安も広がっていますが、現状をどのように受け止めていらっしゃいますか。

三橋教授:今までは、原発から放射性物質がどのように拡散しているか、主に「外部被ばく」に関する懸念でしたが、先週あたりから農作物や水道水の問題など、体内に放射性物質を取り込んでしまう「内部被ばく」の不安も高まり、国民のパニックはより高まっているように感じます。

 「暫定規制値」とは放射性物質で汚染された野菜や牛乳を、1年間摂取し続けた場合でも安全とされる値として設定されています。放射性ヨウ素で飲料水・牛乳・乳製品1キロあたり300ベクレル、野菜類が同2000ベクレルとなっています。ベクレルとは「1秒間に崩壊する原子の数」を指し、放射能の強さを表します。野菜や牛乳に放射能が含まれた場合、人体にどれほどの影響を与えるか、単位をシーベルトに換算して算出しています。

 放射性物質には、ヨウ素やセシウムなどがありますが、今回特に気をつけなければいけないのは「ヨウ素131」です。ヨウ素は甲状腺に蓄積する性質があり、チェルノブイリの事故でも甲状腺がんを引き起こした要因とされています。ですが、このヨウ素131は半減期(放射能が半分になる期間)が8日と比較的短く、尿や便などから体外へも排出されるので、いかにして甲状腺に貯まるのを防ぐかがカギとなります。

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