2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2011年3月30日

 そのために「安定ヨウ素」をとる必要がある、というのはすでにご存知の方も多いかもしれません。あらかじめ安定ヨウ素を甲状腺に取り込むことで、放射性ヨウ素の蓄積を妨げるということです。ただし、40歳以上の人はすでにヨウ素が甲状腺に蓄積されている場合が多いので、基本的には子どもや若年層に対して効果があると言えます。しかし安定ヨウ素の効果は約24時間なので、原則的には1度飲ませてその間に避難するのが良いでしょう。

 また、うがい薬やヨードチンキにヨウ素が含まれているため、それを飲んだ人がいるという話も聞きますが、胃の粘膜がただれてしまいますので絶対にやめてください。子どもの場合はアルコール中毒になる危険性もあります。他にも、カリウムとヨウ素からなる無機化合物のヨウ化カリウムの買い占めの話もあるようですが、これも適量を服用しなければショック症状などを起こしかねませんので、いずれにしろ専門家の判断を仰ぐべきです。

「どの程度の摂取なら安全か」が
わからないという不安

 繰り返しになりますが、「暫定規制値」とはそもそもが大変厳しい基準であり、それを超えたからすぐに危険な状態というわけではありません。先述のように、野菜や牛乳を「1キロ」摂取した場合ですので、私たちが1日に食べたり飲んだりする量を考えても、簡単に超えられる数値ではないのです。しかしながら、「ではどこまでの摂取なら安全なのか」「妊婦が取り込んだ場合、胎児にどの程度影響があるのか」「母乳からの影響はいかほどか」などについては、具体的なデータがないことも事実ですので、不安に感じるのも当然と言えます。行政は、現在東京都が乳児のいる家庭にペットボトル飲料水を配布するなど、そういった対処をせざるを得ないでしょう。

 さらに、今週になって報道されたプルトニウム239は半減期が24,000年と極めて長い放射性物質です。幸い重い粒子なので遠くまで飛散しませんが、吸い込むと肺に吸着します。α線という強い放射線を出すことから肺がんのリスクが増加すると言われています。

 もともと日本人は日常生活で放射線を浴びていることを意識していないので、このような事態では余計に不安が募ります。この状況が長期化すれば、状況がどう変化するかは誰にも分かりませんので、諸会見で「現状のままなら安全」という言い方しかできないことも、それによって国民が不安になることもよく分かります。個々の冷静な情報収集と判断が必要になりますので、ぜひ落ち着いて行動してください。

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三橋 紀夫(みつはし・のりお)
1949年東京都生まれ。放射線腫瘍医。東京女子医科大学「放射線腫瘍学講座」主任教授。群馬大学医学部卒業。日本放射線腫瘍学会理事、日本癌治療学会理事、日本頭頚部癌学会理事、日本医学放射線学会代議員及び生物部会長等、多くのがん関連学会の委員、役員を務める。著書に『がんをどう考えるか―放射線治療医からの提言』(新潮社)など。


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