西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年5月29日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

(iStock/BackyardProduction)

 「メキシコからの移民は麻薬密売人や強姦魔だ」。「米墨国境に壁を作る」。ドナルド・トランプは、2016年大統領選挙の最中から移民に関する様々な発言で注目を集めた。

 トランプの発言が注目を集めた背景に人口動態の変化がある。1960年には人口の85%を占めていた白人(中南米系を除く、以下同様)は2050年までには人口の半数を下回ると予想されている。他方、移民人口は増大している。特に、中南米系は2011年段階で人口の17%と既に黒人(12%)を上回っており、2050年までに人口の3割に達すると予想されている。

 近年、世界的に移民問題が大きな話題になっている。多くの国で移民が議論される場合、合法移民受け入れの是非が問題になる。だが、アメリカは一定数の合法移民を受け入れるのを当然と考えており、現在も年間70万人を受け入れている。

 アメリカで問題となっているのは不法移民対策である。不法移民をこれ以上増やすべきでないことについては一定の合意があるが、既に1100万人以上存在するとされる不法移民への対応については見解が分かれている。全員国外退去させるべきという人がいる一方で、それは現実的に困難なので、一部の不法移民に滞在と労働の許可を与え、国籍付与の可能性も検討すべきと言う人もいる。

移民の印象を悪化させるトランプの「動物」発言

 中南米系移民が争点となるのは、彼らには従来の移民と違う特徴があると考える人が多いからである。

 中南米とアメリカは地理的に近接していることもあり、中南米系には出稼ぎ感覚で来ている移民も多い。外貨獲得を目指す中南米諸国が、アメリカに行った移民に二重国籍取得を促して繋がりを確保しようとしていることもあり、中南米系はアメリカに対して十分な忠誠心を持たないと考えている人もいる。また、アメリカでは国籍について出生地主義原則が採用されているため、不法滞在中の人の子どもであっても、国内で生まれた者には国籍が付与される。そのようにして産まれた子どもが21歳になれば家族を呼び寄せるのが容易になるため、この制度を活用しようとして不法移民が来ているのではないかとも批判されている。中南米系が、白人労働者階級の職を奪っているとか、社会福祉政策を悪用していると主張する人もいる。また、アメリカで流通している麻薬の多くがメキシコから流入しているため、中南米系移民が犯罪率を押し上げているという議論もなされている。

 実際には、中南米系移民に対する批判は妥当でない所が多い。歴史的に見て、出稼ぎ感覚で移民してきた人は他にも存在したし、移民の子どもが出生地主義原則に基づいて国籍を取得するのも一般的だった。白人労働者階級の仕事が減少している主な原因は、産業構造の変化と機械化である。移民は基本的に公的扶助を受給することができず、年金を受給するには10年間の社会保障税の納入が必要なため、社会福祉制度に大きな負荷をかけていない。移民の犯罪率は標準的なアメリカ人と比べて低く、麻薬を持ち込む人はごくわずかである。

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