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2018年6月7日

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真田康弘 (さなだ・やすひろ)

早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員/客員准教授

早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授。神戸大学国際協力研究科博士課程前期課程修了(修士・政治学)。同研究科博士課程後期課程修了(博士・政治学)。大阪大学大学教育実践センター非常勤講師、東京工業大学社会理工学研究科産学官連携研究員、法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチ・アドミニストレータを経て、2014年より現職。専門は政治学、国際政治史、国際関係論、環境政策論。地球環境政策や漁業資源管理など幅広く研究を行っている。著書に『A Repeated Story of the Tragedy of the Commons: A Short Survey on the Pacific Bluefin Tuna Fisheries and Farming in Japan』(早稲田大学、2015年)、その他論文を多数発表。
 

 市場を使用する際の費用面についても課題が出始めている。例えば、整備後の荷捌き所では、内燃機関で動く既存のフォークリフトではなく、電気や水素(実験段階)を動力としたリフトを使わなければならないため、各事業者には導入コストがかかる。また、整備後の施設使用料や家賃等については、整備完了直前まで公開されない。

 下関中央魚市場株式会社常務取締役の波田慎治氏は、「衛生化を進めること自体に反対はしないが、リフトの電動化や木製パレットのプラスチック化、荷捌きの手間の増加など、コストがかさむ事業を急速に進められても、現場はその流れに対応できない。整備完了後に事業を続けていけるのか不安に怯(おび)える業者は多い」と苦悩をませる。

 また、ある市民は、「今の下関漁港ができたのは漁獲量も船も多かった時代だ。これだけ漁業が衰退する中で同規模の漁港を整備する必要はあるのか」と疑問を呈す。事実、下関漁港での取扱量はピーク時には約25万トンを誇ったが、現在では2万トンを切っている。

 沖合底引き網漁を行う有限会社佐賀水産専務取締役の宮本洋平氏は、「昔は20カ統40隻以上の沖合底引き船があったが10年前には11カ統22隻に、今では7カ統14隻まで減った。船の多くは老朽化していて改修が必要だが、それには2億5000万~3億円かかるため、やむを得ず漁業から身を引く事業者も多い」と表情を曇らせる。

 16年度から、高度衛生化に対応した船の改修を行う場合に限り、県と市で計1億円の補助を行う「リシップ事業」が行われているものの、それを利用しても1億~2億円もの改修費用がかかる。「漁港整備に137億円もかけるのであれば、もう少し船の改修などに回せないものか」(宮本氏)との声も聞こえてくる。

 各地で課題が山積している状況に関して、水産庁漁港漁場整備部計画課課長補佐の中村克彦氏は、「新しいことを行うことに対して抵抗があるかもしれないが、衛生管理の重要性が世の風潮として高まる中で、現場は少しずつ前向きに捉えるようになってきたという認識はある。漁港整備の予算については、ハードの対策なのでどうしても金額が高くなる。事業対象箇所は厳格に選定しており、年間700億でも厳しい金額だ」と説明する。

透明性に疑問符がつく水産行政

全ての漁港整備事業で費用対効果がプラス

 各地で進められる漁港整備事業については、それらの費用対効果が水産庁の下でレビューされている。例えば、今年3月末に水産庁は計86の水産関係公共事業の事前ないし事後評価結果を公開しているが、いずれも効果が費用を上回るとされている。しかしながら、結果については首をかしげざるを得ないものも少なくない。

 例えば、下関漁港整備の総費用額約125億円に対し、整備によって得られる便益は約176億円とされているが、うち約170億円は「漁獲物付加価値化の効果」とされている。前出の中村氏によれば、これは年間の陸揚げ金額に衛生管理効果率8%を乗じて算出しており、8%という数値は、いくつかの市場の関係者に、衛生管理が魚価にどれくらい影響しているかを調査した結果として算出した値で、他の多くの漁港整備の(高度衛生化整備に関する)計算でも用いているという。

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