家電口論

2018年6月8日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

MRシステム共通の問題点

 今回使用されるMRデバイスはマイクロソフト社のHoloLens(ホロレンズ)。オーバーグラスで、化学実験で使う保護眼鏡、もしくはスキーゴーグルに光学デバイスが付いたモノと考えてください。ウェアラブル(身に着用できる)デバイスの一つです。

 私は、この分野の最大の問題点はソフトではなく、このウェアラブルデバイスだと考えています。理由は簡単。「すぐズレる」からです。

片手でHoloLensを抑えながら操作しなければならなかった

 いい眼鏡の条件の一つに、「ズレない」ということがあげられます。これを達成するために行われている技術が、「軽量化」と「フィッティング」。軽量化はレンズだけでなく、フレームもです。そしてフレームを一つ一つユーザーの顔に合わせて調整、フィットさせます。そうして、人が運動しても問題ないようにするわけです。顔、頭の形は人によって違いますから、そこまでしないとフィットしません。

 私は、マイクロソフト社のHoloLens(ホロレンズ)も含め、幾つものデバイスをチェックしたことがあります。が、「これはイイ。使える。」と評価できるモノはありませんでした。眼鏡で言うレンズ部が重いのでズレるのです。その上、表示部分が、狭い。AR、MRのグラスタイプの場合、ほとんど現実世界を見ることになりますので、データーが表示されるエリアは限定されています。ちょっとズレると、非常に見えにくくなってしまいます。

 記者会見後の体験デモでは、無意識でしょうが、全員片手でホロレンズを動かないように押さえていました。私は意識して、きつくセットし、手を外したのですが、ホロレンズは表示部が重いので、下がり気味でした。正直、結構辛いレベルです。

 これはコンセプトがどう、ソフトがどう、という前に、MRデバイスの出来が悪いためですが、これで実用化した場合、現場では片手しか使えない、動きが遅くなる、操作を読み違えるなどということも発生するわけで、これは問題ありと思います。

東電のMRデバイス開発はあるのか?

 今回の東電とポケット・クエリーズの共同開発プロジェクトに、MRデバイスの開発は含まれていません。スケジュールには、業務活用を最も早い場合、「2019年〜」とありますので、ソフトの方は、ある程度目処が付いているのだろうと思われます。ただ、これにMRデバイスの開発は含まれていないと思います。

 確かにMRデバイスは市販のモノを購入すれば良いわけですし、ソフトを完成させると仕事とは完結することになります。しかし「現場で使う」という課題に関しては、ベストな解答になるのでしょうか? 少なくとも眼鏡のように顔からほとんどズレないというモノはできないでしょうか? 技術的難易度も非常に高いと思います。ヘッドフォンでいろいろな種類の耳型を作成、フィッティングに努めたソニーのヘッドマウント・ディスプレイは、それなりによく出来てはいます。しかし、これは椅子に座って静止した状態です。逆に現場では動くことが前提です。しかものぞき込まなければならない可能性もあり、すごくズレやすい環境です。難易度は極めて高いと思います。

 グラスではなくスマホの様な、小型ディスプレイを使うという手もあります。こちらは確実に片手が使えません。やはり現場で片手は頂けません。またサムソンは、コンタクト型のMRデバイスを開発中だそうですが、装着してみない限り、良し悪しの判断はできません。とにかく、私が知る限り、万人に合うMRデバイスは、現時点ではないと思います。

 東電とポケット・クエリーズは、このシステムができた場合は、カスタマイズしていろいろな所に使ってもらう考えですが、だからこそ、どこでも使えるシステムにする必要があります。そう、3.11の時にあったらと思えるレベルに仕上げるべきでしょう。それにはすごいMRデバイスが不可欠です。システムの有用性は、一番弱い所が律速になります。この問題、どうクリアするか、腕の見せ所です。

  
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