海野素央の Love Trumps Hate

2018年6月12日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

機会損失の交渉術

 『米朝会談は100%ある! トランプの芝居に惑わされるな』で説明しましたが、例の会談中止の書簡において、トランプ氏は「機会損失」という戦術をとりました。最後の第3パラグラフで金氏に対して「しまった!」と後悔をさせる一文で締めくくっています。見事な書簡でした。ニューヨークの不動産取引で学習したのでしょう。

 今度も同様に、トランプ大統領は、米朝首脳会談の直前に「もう2度とこのチャンスはないだろう。このチャンスは1回だけだ」と述べて、機会損失に訴えて金委員長を強くけん制しました。

 カナダからシンガポールに向かう大統領専用機の中で、トランプ氏は「G7の共同宣言を認めない」と自身のツイッターに書き込みました。今回の議長国であり、鉄鋼の輸入制限を巡って同氏と鋭く対立しているカナダのトルドー首相に向けて発信したメッセージなのですが、直接交渉の前に金委員長に対して「強い大統領」をみせつけたともいえます。

「手柄」は自分、「支払い」は隣国

 トランプ氏は、会談の目的は金委員長との「人間関係づくりプラスアルファ」と語りました。ではプラスアルファとは何を意味しているのでしょうか。

 米朝首脳会談では期限や具体的手法といった点で溝が埋まっていない非核化よりも、ハードルが低い朝鮮戦争の終結宣言を成果として残すでしょう。従って、プラスアルファは、終結宣言を指している可能性が高いです。

 トランプ大統領は会談で、「手柄」を自分のものにすることは確かです。すでに北朝鮮への経済支援に関して、「米国は出費する必要はない」と述べたうえで、「日本、韓国、中国に支払うように伝えてある」と明言しました。

 この発言は、中間選挙を控え、支持者を見据えた発言です。

 米下院外交委員会に所属しているジェリー・コノリー議員(民主党・バージニア州第11選挙区)の首席補佐官が「米国民は北朝鮮に税金を払いたくない」と筆者に語っていました。特に、トランプ支持者は税金を使用した北朝鮮への経済支援には反対だからです。

 結局、トランプ大統領は会談で、「手柄」は自分、「支払い」は隣国にしたいのです。少々乱暴な言い方をすれば、「僕が北東アジアの平和をもたらしたのだから、君たちでしっかり払っておけ」となります。

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