日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2018年6月14日

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早川友久 (はやかわ・ともひさ)

李登輝 元台湾総統 秘書

1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

日々どんな仕事をしているのか

 名刺交換などをするとよく「いつもどんな仕事をしているんですか」と聞かれることがある。実際、細々とした事務処理をすることも多く、答えとしては「秘書業務です」としか言いようがないのであるが、それではあまりに抽象的だ。そこで、李総統の日本語秘書がどんな仕事をしているのか、ある一日をご紹介したい。

李登輝事務所が入っている淡水のビル

 私は毎朝、基本的には淡水の李登輝事務所に出勤するのだが、直行することは少ない。政治家の秘書と聞くと、朝が早いイメージがあるだろう。たとえ退任した総統であろうと変わらないと思うのだが、実際、朝はそれほど早くはない。これは李総統の生活スタイルとも関連している。総統夫妻は宵っ張りなのだ。夜は読書やテレビを見ることで過ごし、就寝は午前1時、2時というのはザラ。しぜん、起きるのはゆっくりめとなる。

 だからこそ、この朝の時間は、私にとって多方面の関係者とのコミュニケーション作りの時間に当てることが多い。人間関係を維持していくには一緒に飲みに行くのがベストだが、そうそう毎晩飲み歩いてもいられないので、この「朝まわり」は情報交換と人間関係のパイプの維持に有益なのだ。李登輝が知りたいこと、李登輝が発する言葉を理解するための情報収集ともいえよう。

 例えば、特に用向きがなくとも、日本の新聞社の台北支局や、国交がない台湾において大使館の役割を果たす「交流協会台北事務所」に出向く。コーヒーの一杯もごちそうになりながら、世間話に興ずる。あまり無駄話をすると、朝の忙しい時間に相手にも迷惑なので、短時間で切り上げるが、それによって時には情報を得ることもあるし、顔つなぎにもなる。今頃だと、今月下旬に予定されている沖縄訪問についての打ち合わせに台湾外交部や航空会社を訪問することも多い。

 午前10時ごろには事務所に出勤する。そこではメール、手紙、FAXの処理である。FAXは時代の流れか最近めっきり減ったが、親しくなればFacebookやLINEで繋がり、それを通じて仕事上の連絡をしてくる人もいる。どの手段にせよ、毎日少なくない数の連絡が来るが、内容は様々である。

 今日のメールボックスを見ると、沖縄訪問についての事務連絡、インタビューや原稿の依頼、表敬訪問の日時調整、御礼のメール、原稿料の振込先口座の確認、来春の出版を目指す書籍の章立てに関する打ち合わせ、等だ。御礼状や書籍の贈呈は毎日のように届く。これらを、まずは総統に報告するもの、しなくともよいもの、つまり私が処理することで足りるものに分けるのも私の仕事だ。

 ちなみに総統に報告するものについては、記録を残すためにもすべて公文でのやり取りとなる。それぞれについて簡潔に公文を起こし報告する。例えば、「日本のなんとか新聞から、何月何日に最近の日台関係についてインタビューしたい、という依頼がありますが如何しますか」といった具合だ。それに対し、総統が「可」とサインすれば裁可が下りたことになり、総統の判断を仰いだ、という手続きを踏んだことになる。

 私自身で処理できるものは返信し、御礼状や贈呈された書籍への返事を書き終わる頃には、総統の自宅から前日に報告した公文が戻ってくる。私が報告した内容について、総統がそれぞれ判断するわけだが、その内容についても相手方に連絡しなければならない。「総統は喜んでインタビューをお受けします。ついては、○月○日、何時から総統ご自宅にてお願いします。詳細は追ってご連絡します」といった具合である。

 こんなやり取りをしている間に、もはやお昼の時間である。

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