2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2018年6月19日

 さて、今回、ブルックリン・ブルワリーが日本で商品展開をするにあたって手を組んだのがキリンビールだ。キリンは、他の大手3社に比べて、積極的にクラフトビールを展開してきた。クラフトビールを出すということは、「一番搾り」や「キリンラガー」といったメインストリームのビールの市場を食うことにもなってしまう。しかし、国内ビール市場がシュリンクして行くと同時に、ヒンディ氏が言うように個人の嗜好が多様化するなかで、「クラフトビール」という新しい分野にチャレンジするという決断をした。

 クラフトビールに合わせて、もう一つ、キリンが手を打っているのが、積極的なアジア市場への展開だ。前述の通り、背景にあるのは、国内のビール消費の落ち込みである。

 日本の酒類全体の消費量を見ると、ピークだった1996年の966万klから2016年には841万klまで減った。一方、ビール類の消費量はというと、2006年に約629万klあったものが、2016年には、525万klと、100万klも減っている。

 酒類全体よりも、ビール類の減少量は大きいのだ。1998年には、全体の消費量に占めるビール類の割合は62%あったが、2016年には31%まで低下している。一方で、チューハイなどのリキュールは、24%と大幅に増加している。

ミャンマービールって何?

 こうした状況のなかでとるべき戦略は何か? 参考事例がある。世界のテレビ市場といえば、かつてソニー、パナソニック、シャープなど日本のメーカーが大きなシェアを持っていた。しかし、今や見る影もない。大きな赤字を出したすえ、プレミアム市場のみを狙うという縮小戦略で危機を脱したものの、もはや世界市場での存在感はない。それにとって代わったのがサムスン、LGといった韓国勢である。

ヤンゴン市内の飲食店

 韓国勢に対する敗戦が確定した2010年代前半、日本のメーカーやメディアから聞こえてきたのは「国内に一定規模があった日本メーカーは、海外進出に遅れた。韓国勢は、国内市場が小さかったため、早くから海外志向が強かった」という声だった。

 これを他山の石とするのであれば、今こそ日本のビールメーカーは海外に出るべき時なのである。今やアジアを席捲する中国製スマホ、韓国製家電製品などに対して、ビールにおいては中国、韓国勢の進出が見られないのも、日本勢にとっては好都合だ。

 国内ビールメーカーで最も積極果敢に世界、特にアジアに打って出ているのが、キリンビールだ。国内の酒類消費量が減少傾向に入った2000年以降、フィリピン、ベトナム、タイ、シンガポールへと進出した。最も直近に進出したのはミャンマーで、2015年にミャンマーで8割のシェアを持つ、ミャンマーブルワリーの筆頭株主(現在51%)となった。さらに、2017年には、第2位のマンダレー・ブルワリーの筆頭株主にもなった。

ミャンマーのビールといえば「ミャンマービール」

 ミャンマーのビール市場は2016年において33万klと数字こそ小さいが、09年に9万klだったことからすると伸びしろは大きい。キリンビールの経営戦略担当の大谷浩世さんによれば、「敬虔な仏教徒の国ですので飲酒に否定的なイメージがあるのも事実ですが、タイなども時間をかけて消費量を伸ばしてきたのを見れば、今後の期待は大きいです」ということだ。

 では、ミャンマー市場ではどのような商品展開をしているか。まずはメインストリーム層の強化である。主力である「ミャンマービール」の製造を強化すべく、今年に入って10万klの高効率ラインを稼働させた。一方で、キリンの看板ブランドである「一番搾り」の製造・販売もミャンマー現地で行っている。メイン層をがっちりつかみつつ、将来の需要爆発期を見込んで、「いつかは飲んでみたい」という、インターナショナルブランドとしての地位を今から築いて行くという戦略だ。さらには、メインストリームの1ランク下となるエコノミークラスのビールの販売もはじめた。
 
 ミャンマーだけではなく、フィリピン、マレーシア、インドネシアなど、現地ビールメーカーのマジョリティを握っている国では、上から下まで押さえる戦略をとっている。キリンの日本におけるビール類出荷量は2017年で約160万kl。そう遠くない将来、アジアでの生産量が多くなるかもしれない。

 クラフトビールは日本のビール市場の救世主となるのか? そして、販売量の減少の活路をアジアに求める戦略はどうなるのか? 行方が注目される。

  
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