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2018年6月13日

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ジェニー・タウン、米スティムソン・センター研究アナリスト、北朝鮮情報サイト「38ノース」編集局長

シンガポールの米朝首脳会談に対する刻一刻の反応は、まるで究極の外交ロールシャッハ・テストのようだった。何が起きたのかについて、受け止め方は人によってばらばらだった。

米朝関係の新機軸を打ち出したものと称える人もいる。対決姿勢よりも協調する新しいアプローチなのだと。

要求が全て通らなければ合意はありえないという、従来の交渉スタイルを止めたと評価する人もいる。もっと現実的で長期的なプロセスを選び、どこに向かっているのか、そこへどうやってたどり着くのか、詳細の打ち合わせに十分な時間と場をとろうという姿勢は、一切の妥協を認めない従来のやり方より優れていると。

他方で、非核化について目新しい成果や具体的な成果は何もなく、ただ単に、両首脳が切望するマスコミの注目を与えただけだという批判もある。

もちろん、批判しながら評価する、あるいは評価しつつも批判するという立場も十分あり得る。

シンガポール首脳会談は、北朝鮮の最高指導者と現職の米国大統領が初めて対面したという意味で、紛れもなく歴史的だった。しかし、その成果の判定はそう簡単ではない。

従来の米大統領は、北朝鮮が大量破壊兵器開発事業の破棄に向けて、検証可能な進展をまず見せなければ、首脳会談はあり得ないという姿勢を貫いていた。これに対してドナルド・トランプ氏は、この伝統的な外交手法とは別の取り組み方を選んだ。それによって、今後の交渉は今までより機敏なものになるかもしれない。

というのも、両国が合意する目標に向かってトップダウンでゴーサインが出されれば、今回のこの交渉プロセスを維持してゴールまで持ち込もうという政治的な意思が生まれ、優先順位も上がり、関係者がそれぞれ自分の政治力をかけて推進しようという機運が生まれるかもしれない。

なによりも、トランプ氏と金正恩氏の間に今回築かれた個人的な人間関係があれば、将来的にささいなことで「炎と激怒」状態に戻ってしまう事態を防げるかもしれない。

とは言え、シンガポール首脳会談の具体的な中身ということになると、両首脳が署名した共同声明は、平和と非核化と米朝関係の再定義について、大雑把に約束したに過ぎない。

声明の文言は確かに、北朝鮮が米国の敵対政策と呼ぶものの根本的問題を取り込んでいる。しかし、具体性に欠け、内容が過去の取り決めにそっくりなことが懸念材料だ。

せめて最低でも、米国にとっての核心的課題について双方の共通理解が確立できるだろうという期待(あるいは強力な欲求)が、事前にはあった。つまり、「朝鮮半島の非核化」とはいったい何を意味するのかについて、共通理解が得られるだろうと。特に韓国にとって、そして米国の拡大抑止力にとって。

米国と北朝鮮は具体的に、いったい何を約束したのか。この交渉プロセスのどの時点になったら、その共通理解が得られるのか。明確な目標設定がなければ、いったいどうやって成功を計るのか。

韓国不意打ち?

首脳会談の共同宣言の表現が曖昧なのは、特に珍しいことではない。しかし、会談後の記者会見でトランプ大統領が明らかにした具体的な内容によって、さらに疑問は膨らむかもしれない。加えて、複数の二国間交渉が同時並行する状況で、事態を前に進めるのがいかに大変なことかも、浮き彫りになったと言える。

トランプ氏は、交渉継続中は米韓合同軍事演習は中止すると、この一点は言明した様子だ。合同軍事演習は北朝鮮がかねてから問題視していた懸案事項だ。攻撃訓練が含まれるようになってからはなおさらだった。しかし、この譲歩が全体のプロセスにどうはまるのか、疑問が浮かぶ。

この点について韓国政府の反応を見ると、首脳会談前にトランプ氏が文在寅(ムン・ジェイン)大統領と電話で会談していたにもかかわらず、青瓦台(大統領府)はまたしてもこの発表に不意を突かれた様子がうかがえる。

交渉の渦中でこうして同盟国と調整はおろか、コミュニケーションすらとれていない状態は、複数の交渉が同時並行するなかで相手に付け入る隙を与えてしまう。この情報共有の不備は何とかしなければ、米国と韓国双方の交渉力を弱くしてしまう。

トランプ氏も金氏も全体としては、歴史的な会談への高い注目と、自分たちの成果に満足して、それぞれ帰国したようだ。何より重要だったのは、共同声明が掲げた各項目の詳細を決めるために今後も両政府の高いレベルで対話を続けていくという約束だった。

今まで果たせなかったところまで非核化プロセスを持ち込むには、米朝双方にとってこれがきっかけとなるのかもしれない。しかし、いずれにしてもこれは交渉ごとだ。そして、数カ月間にわたる金正恩氏の外交デビュー(シンガポールで大歓迎されたのがピークだった)によって、北朝鮮は自信と交渉力を高めている。

戦争への道から遠ざかりつつあるのは、ありがたいことだ。しかし今度はトランプ政権が試される番だ。始まったこのプロセスを継続し、大雑把な約束のその先まで交渉を前進させ、そして丈夫で長持ちする解決に持ち込むことができるのかどうか。

(英語記事 Trump Kim summit: Rhetoric versus reality

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44463815

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