世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年6月25日

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 シリア内戦を巡っては、これまで、アサド政権を支持するロシア、イラン、同政権に反対する、米国、EU、トルコ、サウジ等湾岸諸国、という構図が成り立ってきた。「代理戦争」と呼ばれる所以である。非国家主体としては、イランの息がかかったヒズボラがアサド政権側につき、シリアの反政府勢力はアサドに敵対してきたが弱体がが著しい。シリアにおけるIS打倒作戦が最終局面に入りつつあるが、それに伴い、外部勢力間のパワーバランスや、従来の「代理戦争」の構図がそのまま続くのかといったことに、焦点が当たることになる。

(iStock.com/Lusyaya/SMarina/oleg_komarov/king144)

 これに関して、最近、親アサド勢力間に亀裂の兆しが見られるとの観察がある。米国のシンクタンクCNASのIlan Goldenberg中東安全保障プログラム部長とNicholas A. Heras研究員は、6月4日付でForeign Affairs誌ウェブサイトに掲載された‘The Pro-Assad Alliance Is Coming Apart’と題する論説で、シリアでの影響力を固めイスラエルに軍事圧力を掛けたいイランと、イスラエルとの紛争拡大を恐れるアサド、ヒズボラ、ロシアの間に亀裂が生まれつつある、と指摘している。

 同記事は、アサド、ヒズボラ、ロシアの意図を次のように分析する。アサドは、国内の正常化、復興を進めたいと考え、海外からの投資に期待、イスラエルとの戦争を望んでいない。ヒズボラは、イスラエルとの戦争になれば2006 年7 月のイスラエルとの戦争以来手に入れた成果は損なわれる、と懸念している。プーチンは、国際的威信を高める形でシリア内戦を終わらせたい。タルトゥース海軍基地と現在拡張中のフメイミム空軍基地を掌握し、復興事業、特にシリア沖合のガス田開発や中央、東部地域のエネルギー賦存地帯での事業を獲得したい。

 これは、非常に興味深い分析であると言える。イランとアサドやロシアとの間に亀裂が起こりうることは、大いに考えられることである。もともと、イランとロシアの同盟は同床異夢の側面が小さくなかった。こうした、亀裂の萌芽のような動きの背景には、一つには内戦が徐々に終結に向かっていることがあろう。しかし、さらに大きいな要因としては、ネタニヤフがプーチンとも緊密に連携していること、そして、イスラエルが圧倒的な軍事力とその使用を厭わない意志を持っていることがあると思われる。

 ポンペオ国務長官は5月21日に行った対イラン戦略に関する演説で、イランの影響力を減殺することを強調したが、具体策は打ち出せずにいた。今後、米国がシリアにおける親アサド勢力間の亀裂を利用し、イランのシリアに対する影響力を縮小させることができるかどうか、注目される。上記論説は、そのために米国がなし得る政策をいくつか挙げているが、特に重要なのは次の二点である。第一は、アサド追放が近い将来に達成できるとの幻想を捨てること、第二は、シリアの北東地域に米軍が長期に亘って残ると明確にすることである。トランプは、シリアからの米軍の早期撤退を口にしたが、いかにもまずい発言であった。

 米欧がこれまでアサド退陣を対シリア政策の柱のひとつに掲げてきたことは、種々の理由があったとはいえ、却って米等のシリア政策の柔軟性を損なう結果となった。当面アサドは残るとの前提でシリアの今後につき考えていかざるを得ないと言うのは、上記論説の指摘の通りだと思われる。今まではIS撲滅が最優先事項だったが、今後の局面は、イランの影響力拡大阻止が重要な目的になる。アサド退陣といった現実を無視した政策では旨くいかないであろう。イランの影響力縮小は、結果としてアサドをより強くするかもしれないが、それは止むを得ないものとして受け止めるべきであろう。

  
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