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2018年6月22日

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選手の肩にかかる国のプレッシャーを最も良く表している写真があるとしたら、上の写真がそうだろう。

アルゼンチン代表のリオネル・メッシは、国民4400万人の期待を背負っている。チーム主将のメッシが目を閉じ、額をさすっているこの写真の表情は、21日のサッカー・ワールドカップ(W杯)グループDの重要な第2戦、アルゼンチン対クロアチアの試合開始前に、メッシがスタジアムに姿を現した際に見られた。

スペイン・リーガエスパニョーラ、バルセロナで戦うフォワードのメッシは、ポルトガル代表クリスティアーノ・ロナウドのライバルと目されている。ロナウドはスペイン代表との試合でのハットトリック(3得点)を含め、今大会2試合で4得点を挙げている。

しかし、クロアチアに3-0で敗れたことで、グループDにおけるアルゼンチンの命運はもはや、自分たちでは左右できなくなってしまった。大会に残れるかどうかは、他チームの結果次第だ。

では、なぜメッシはこれほどまでに上手くいっていないのか? 必死に努力しているのか? メッシ自身の間違いなのか?

「こんなパフォーマンスは記憶にない」

1-1の引き分けに終わった16日のアイスランドとの試合後、メッシがとても落ち込んでいたとする報道がいくつもある。メッシはアルゼンチン代表のスタッフが手配したバーベキューに参加せず、1人でホテルの部屋にいたという。

メッシが21日の試合前に見せたしぐさが頭痛のせいだったなら、英プレミアリーグ・チェルシー所属のアルゼンチン代表ゴールキーパー、ウィリー・カバジェロが犯した大きなミスを見たことで、その頭痛はさらに悪化しただろう。カバジェロのミスは、クロアチアのアンテ・レビッチによるこの試合の初得点を生み、アルゼンチン代表がグループステージで経験した1958年以来最大の敗北も引き起こした。

かつてバルセロナでメッシとチームメイトだったセスク・ファブレガスは、BBCに寄せた分析でアルゼンチン代表を「壊れたチーム」と呼び、そのチームスピリットに疑問を呈した。ファブレガスはアルゼンチンが「お互いのためにでなく、争うようにプレイしている」と述べた。

「メッシにとっては難しい状況だ。メッシは質の高い選手に支えられていない。エベル・バネガ、あるいはジオバニ・ロ・チェルソといった選手を本当に恋しく思っているだろう」とファブレガスは話した。

「メッシには、自分自身のプレイができるよう助けてくれる誰かが必要だ。チーム最高の選手が出来る限りボールの近くにいられる必要がある」

英プレミアリーグのマンチェスター・シティでかつてプレイし、アルゼンチン代表として2014年ブラジルW杯にも出場したディフェンダーのパブロ・サバレタは、チームが「速くプレイできていない」ことが、メッシをファイナル・サード(試合場を3つに分割した際、最も攻撃側に近いエリア)で「孤立」させていると語る。

サバレタはアルゼンチン代表の第2戦の敗北を受け、「こんなパフォーマンスは記憶にない。チームは全く上手くいっていないように見える。予測可能な行動しか取らず、何も作り出せていなかった」

イングランド代表の元主将、アラン・シアラー氏もこう付け加えた。「アルゼンチンには何の計画もない。完全にめちゃくちゃだ」

メッシの苦しい夜

  • メッシはクロアチア戦で49回ボールに触れた。しかし、相手チームのペナルティエリア内でボールに触れたのは2回だけだった
  • メッシが初めてシュートを放ったのは、試合開始後64分してからだった
  • メッシは初戦からの2試合で12本のシュートを放っている。今大会で得点していない選手の中では最多

「私はここで何をしているんだ?」

アルゼンチンのホルヘ・サンパオリ監督には、W杯出場選手の選定時から疑問の声が上がっていた。今シーズン、イタリア・セリエAで最多タイとなる29点を挙げて得点王に輝いたインテル・ミラノ所属のマウロ・イカルディを、サンパオリ監督は代表23人の中に含めなかった。

同じイタリアのユベントスに所属し、1年で22ゴールを挙げたパウロ・ディバラは、代表には選ばれたものの、W杯では2試合とも先発入りしなかった。

ウィンガーだった元イングランド代表のクリス・ワドル氏は、BBCラジオ5ライブで「全てがメッシやメッシの周りを起点にしているのに、メッシの感じ方に全員の波長が合っているわけではない」と指摘した。

「パウロ・ディバラならメッシと連動できるが、彼はベンチにいる。ディバラを試合に入れる必要があるが、サンパオリはセルヒオ・アグエロを選んだ」

「メッシは多くのことをやろうとし過ぎで、結局いらついたまま、試合時間だけが過ぎている。彼はこう考えているに違いない。『私はここで何をしているんだ?』と」

メッシはここからどうするのか?

メッシはアルゼンチン代表として出場した126試合で64得点を挙げてきた。しかし、所属クラブのバルセロナでは持てる全ての優勝トロフィーを掲げてきたにも関わらず、国際舞台では優勝したことがない。

2014年ブラジルW杯の決勝でドイツに敗れ、サッカー南米選手権でも2度の決勝にいずれも敗れて、メッシは2016年6月、国際試合からの引退を決めた。しかし2カ月後、メッシはその決定を撤回した。

サバレタは、メッシがまた代表引退を選択するかもしれないと感じている。

「リオネル・メッシについては、ただただとても残念に思う」とサバレタは述べた。「今大会はアルゼンチン代表に何らかの勝利を持ち帰るメッシにとって最後のチャンスだ。だから、今大会後にメッシが代表を引退しても驚かないだろう」

「彼は相当がっかりするだろうし、カタールW杯までにはあと4年もある」

元アルゼンチン代表ストライカーのエルナン・クレスポ氏はBBCスポーツに対し、メッシがサッカー史上で偉大な存在と考えられるために、W杯での勝利は必要ないと語った。

「W杯に勝利していなくても、偉大だと我々の記憶に刻まれているたくさんの選手がいる」とクレスポ氏は語った。「もしW杯で優勝できれば、メッシは偉大な選手だ。しかし、もし勝てなくても、偉大な選手であることに変わりはない」。

「W杯で優勝していない偉大な選手たちがどれだけいる? 記憶では、ヨハン・クライフや(ミシェル・)プラティニもW杯を勝っていない」

アルゼンチン国内の反応

  • 「クロアチア相手に大惨事 アルゼンチンは落胆、W杯からも敗退一直線」とアルゼンチンの新聞「クラリン」はウェブサイトに記した(写真上)
  • 別の新聞「ラ・ナシオン」は、「アルゼンチンはクロアチアに馬鹿にされた。大会での先行きもあやしい」と書いた
  • アルゼンチン紙「インフォバエ」は、クロアチア戦の敗北について「屈辱」と表現した
  • テレビ放送網「テレビパブリカ」でコメンテーターを務めるディエゴ・ラトーレ氏は、「メッシは行き詰まった。勢いがない」と語った。

サバレタは「アルゼンチンの人々は今、とても怒っている。選手たちはもっと多くのことを期待されている。国民はW杯での結果に飢えており、敗北を受け入れないだろう」と付け加えた。

<分析>メッシの時間、未だ訪れず――パトリック・ジェンキンズ BBCスポーツ(ニジニー・ノブゴロドで取材中)

メッシは試合終了の笛が鳴った後、まっすぐピッチを後にし、競技場を去るトンネルに向かう最初の数人の一人になった。

青と白のシャツ(アルゼンチン代表のユニフォーム)を着て、既にとても多くの痛みを感じてきたメッシにとって、激しい痛みに満ちた夜にだったのは明らかだ。

試合中ずっと、兆候はあった。うまくいかないセルヒオ・アグエロの切り返しに握りこぶしを作り、長すぎるパスにはいら立ったようにその場で軽くジャンプした。

試合中の長い時間、メッシはうろうろとしていた。しかしバルセロナでありがちな形とは異なっていた。バルセロナでメッシがうろうろしていても、試合の中心に戻るまでに消える時間がある程度のことにすぎない。

メッシは今夜、小走りしボールを待ち受けてペースを上げるも、ボールが奪われたり、動、連携がまただめになったりすると、足を止め、腕をばたばたさせていた。

試合後半、選手たちはより強い闘争心と根性を見せた。それはカバジェロの致命的なミスで苦境に陥った後はなおさら必要だったが、うまくいかなかった。

メッシの天才性が輝くには一瞬だけ、ちょっとしたチャンスがあれば十分だと、みんな思いながらメッシを見ていただろう。今夜、その瞬間は訪れなかった。

(英語記事 World Cup: Lionel Messi carrying Argentina's weight of expectation

提供元:https://www.bbc.com/japanese/44572258

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