2024年4月26日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2018年7月4日

意識操作

 秋の中間選挙を見据えてトランプ大統領は、与党共和党候補の応援演説のために、中西部ミネソタ州、西部ネバダ州、南部サウスカロライナ州など重点州を回っています。サウスカロライナ州では、米朝首脳会談の成果について言及し、「北朝鮮のミサイルが日本の上空をもう何カ月も飛ばないので、安倍首相はとても幸せだ。日本の国民も幸せだ」と支持者に語りました。

 トランプ氏の演説を聞けば、支持者は同氏が日本に平和をもたらしたのだから、日本が北朝鮮の非核化と経済支援の費用を支払うのは当然だという意識になります。トランプ氏は、意図的に支持者の意識を操作しながら、日本が費用を支払う環境作りをしているのです。

 トランプ支持者が観る米メディアのインタビューの中で、トランプ氏は「私は、日本では世界のヒーローだと考えられている」と語りました。支持者の意識操作もトランプ流のゲームのやり方であり、看過できません(図表3)。

口利き料

 トランプ大統領は、米朝首脳会談後の記者会見で、北朝鮮の非核化と経済支援の費用を日本と韓国に期待していると明言しました。トランプ氏はこれらの費用を米朝首脳会談で日本のために拉致問題を提起した「口利き料」と捉えているフシがあります。会談前に安倍首相が何度もトランプ氏に提起を依頼したからです。 

 トランプ氏は、ホワイトハウスの記者団に金委員長に自身の直通の電話番号を教えたと語りました。日本と北朝鮮の間に入り、両国の「ブローカー」になり、金氏に非核化を実現させ、代わりに日本からの経済支援を約束するでしょう。自分は費用をかけずに、日本のカネをエサにして金氏を動かす戦略です。

 「費用をかけずにゲームに勝利をする」。このようなトランプ大統領のゲームに対する信念が明確になってきました。

不確実性

 オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード氏は、不確実性に関する国民性の調査を実施しました。ホフステード氏によれば、日本は不確実性の回避が強い文化に、米国は弱い文化にそれぞれ属します。

 不確実性の回避が強い文化では、人々の間に「人生に絶えずつきまとう不確実性は、脅威であり取り除かなければならない」という考えが支配的であると、ホフステード氏はいうのです。一方、不確実性の弱い文化では、人々は「不確実な出来事は日常茶飯事に発生するものであり、それを人生の自然な営みとして受容している」と、同氏は説明しています。つまり、日本人は相対的に不確実性に弱い国民であるということになります。

 周知の通り、トランプ大統領は予測不可能な行動に出ることによって、相手を揺さぶります。自身を不確実性の高い人間に見せかけて、ゲームを優位に進めていく戦略をとります。北朝鮮問題に関して、「最大限の圧力という言葉はもう使いたくない」「米韓合同軍事演習を中止する」と、突然発表しました。これらの発言は、もちろん日本を標的にして発したものではないのですが、同盟国である日本を揺さぶる結果になりました。

 不確実性が極めて高いトランプ大統領にとって、不確実性に弱い日本はゲームの相手国として組みしやすいということです。日本はトランプ氏の「カモリスト」のトップに挙がっているとみて間違いありません。

  
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