オトナの教養 週末の一冊

2018年7月7日

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黒羽夏彦 (くろは・なつひこ)

1974年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2014年より台南市在住。現在、國立成功大學文學院歷史研究所(大学院)在籍。東アジアの近現代に交錯した人物群像に関心を持ち、台湾に視点を置いて見つめ直したいと考えている。

「家族的背景」や「意外なルーツ」を探り出す

 本書は日本と関わりを持つ「タイワニーズ」を列伝的に描き出したノンフィクションである。彼ら/彼女らはすべて現代の人物であり、すでに鬼籍に入られた四人を除き、対象者本人に直接インタビューし、故人についても身近にいた人々から聞き取りを行っている。また、単に個々の人物の軌跡を描き出すだけでなく、その家族的背景も探り出そうとしているところが本書の特色である。それは人物理解に必要というだけでなく、ファミリー・ヒストリーという切り口から日台関係史の一断面が時系列的にも垣間見えてくる。

 最初に取り上げられるのは蓮舫だが、むしろ彼女の祖母にあたる「香蕉(バナナ)女王」こと陳杏村の方に興味がひかれた。戦前はファッション業の最先端を行き、その後、日本軍占領下の上海でタバコ事業を展開、戦後はバナナ貿易で成功を収める。敗戦直後の混乱期にはこうした女傑の活躍も確かに目立っていた(例えば、沖縄・台湾を股にかけて活躍した金城夏子なども思い浮かぶ)。台湾独立運動に身を投じた辜寛敏と、その息子でエコノミストとして著名なリチャード・クーの親子の口からは、それぞれ戦後日中台関係に関わるエピソードも語られる。

 有名な芸能人にも意外なルーツが見られる。ジュディ・オング(翁倩玉)の父・翁炳栄は台湾メディアのキーパーソンで、作詞家でもある。祖父・翁俊明は日本統治時代に台湾総督府医学校に学んだ医師だが、同時期に在籍していた蒋渭水や杜聡明などと共に民族運動に参加、1913年の袁世凱暗殺未遂事件に関与していた。また、女優の余貴美子が台湾北部の客家にルーツを持つことは本書で初めて知った。「日本や台湾、中国というより、私は客家」という余の言葉が印象深い。

 大阪の「551蓬莱」創業者・羅邦強と日清食品創業者・安藤百福(呉百福)の二人も台湾生まれだ。同様に食品業で成功した台湾出身者とは言っても、二人のあり方は対照的である。551蓬莱の名物・豚まんは台湾由来ではなく、「天津包子」のヒットを聞きつけて商品化したのだという。出身地の台湾・嘉義には親族のために建てた邸宅や、「蓬莱食品」という名の看板ロゴも同じ店がある(ただし、豚まんは売っていない)。おそらく故郷に錦を飾ろうという気持ちがあったのだろう。安藤百福はチキンラーメンの発明で知られている。これは台湾南部の「意麺」をヒントにしたと推測されるが、他方で彼はチキンラーメンを自身のオリジナルと主張していたのみならず、台湾に出自を持つこと自体ほとんど語らなかったという。

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