Washington Files

2018年7月9日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。現在、神田外語グループ参与。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

あるのはトランプ党だけ

 「私が理解してきた共和党という政党は今や存在しない。あるのはトランプ党だけだ。トランプ大統領がやっていることは私のスタイルではなく、彼はわれわれがこれまで選んできた大統領の中で最も異質のリーダーだ」―昨年まで下院議長を務めたのち政界から引退したジョン・ベーナー前共和党議員が去る5月30日、デトロイト近郊の地方集会で行った演説は、米マスコミでも大きく取り上げられたが、まさに的を射た指摘だ。

 ところが、ライアン下院議長、ミッチ・マコーネル上院院内総務ら共和党議会指導部は、
トランプ・ホワイトハウス主導で進められてきた一連の内外政策に対し、ごくたまに異議を指しはさむことはあったものの、ほとんど白紙手形も同然だった。もちろん、それらが、トランプ政権誕生前までの共和党基本政策から逸脱していることを承知の上でのことだ。

 2016年7月、共和党全国大会で採択された大統領選に向けた同党政策綱領を振り返ってみると、そのギャップがはっきりする。

 当時の政策綱領では、共和党が政権に返り咲いた場合の「ロードマップ」について、以下のような項目を列挙していた。

 ①「わが党は開かれた市場の原則に則り、世界規模の多国間協定締結をめざす」
(トランプ政権下では、政権発足当初からTPPからの離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直し、日欧諸国からの輸入品に対する追加課税措置など、「開かれた市場」に逆行する保護貿易主義を推進)。

 ②「ウクライナの領土保全が回復されるまで、同盟諸国とともにロシアに対する制裁を継続、強化する」(ロシアがウクライナ領のクリミアを力ずくで併合して以来、アメリカをはじめNATO諸国はロシアへの経済制裁措置をとってきたが、トランプ大統領登場以後、制裁を緩め、先のG7サミットでは大統領自らが「ロシアもサミット・メンバーに復帰させるべきだ」とさえ主張、大きな波紋を投げかけた)。

 ③「アイゼンハワー以後の共和党大統領が推進してきた世界的リーダーシップを確認し、アメリカが世界をより偉大な平和と繁栄の新たな世紀へと導く先導役となる」(歴代の共和党政権が世界的役割を果たしてきたことは事実だが、トランプ政権は「アメリカ・ファースト」のスローガンを掲げ、こうした共和党の伝統に反する政策を推進してきた)。

 ④「金ファミリーの奴隷国家である北朝鮮について、日韓、オーストラリアなど同盟諸国とともに同国の人権確立をめざし、中国にも北朝鮮の体制変革の必要性を認識させる」(トランプ大統領が去る6月12日、シンガポールで金正恩朝鮮労働党委員長との初の首脳会談を開催以来、金委員長を礼賛し、非核化達成と引き換えに体制転覆どころか同政権の「体制保証」にまで言及してきたことは広く報道された通りだ)。

 ではなぜこのような、同党の綱領に反する政策を共和党議会が黙認してきたかといえば、2016年大統領選以来、共和党指導者たちがトランプ氏に対し“贖罪意識”を抱いているからに他ならない。 

関連記事

新着記事

»もっと見る