ベストセラーで読むアメリカ

2018年7月12日

»著者プロフィール

各界の大物を味方につけたエリザベス

『Bad Blood』(John Carreyrou,Knopf)

 セラノスを創業して間もなく、CEOのエリザベス・ホームズは600万ドルの資金調達に成功する。最初に、世界的に有名なベンチャー・キャピタリストであるティム・ドレイパーから1000万ドルの出資をとりつけたことが追い風となった。人脈や口コミを重視するシリコンバレーでは、有名な投資家を引き込むことで会社にはくがつく。ところが、エリザベスは幼いころドレイパーと家が近所で、その娘と友達だった縁を利用しただけだった。

 エリザベスはさらに、ドナルド・ルーカスという古参のベンチャー・キャピタリストからも出資を仰ぎ取締役にも就任してもらう。エリザベスは父親が政府系機関で働いていたときの人脈もたどり、元国務長官のジョージ・シュルツやヘンリー・キッシンジャー、今ではトランプ政権で国防長官を務めるジェームズ・マチスまで、セラノスの取締役会のメンバーに据える。ほかにも、大手銀行の元CEOや元国防長官のウィリアム・ペリーといった政財界の大物たちがセラノスの取締役に就いた。いずれも高齢で社会的な名声を確立した大物で、バイオテクノロジーの専門知識はない。才気あふれる若き美貌のCEOの魅力にほだされたといったところだろう。

 大手ドラッグストアのウォルグリーンのCEOら大手企業の経営者もエリザベスを崇拝し業務提携のために多額の資金を投じる。ウォルグリーンの社内では、話題先行で実証データを示さないセラノスの対応に疑問を持ち提携に反対する声も出た。しかし、経営トップがエリザベスを気に入り慎重論に耳を全く傾けなかったという。

 各界の大物を取り巻きとして味方につけながら、エリザベスの野望だけは大きくなる。起業家として成功することを夢見てきたエリザベスは当然ながら、スティーブ・ジョブズを崇拝しており、自身も黒のタートルネックを日ごろ着るようになりジョブズの真似をすることが多くなった。2011年11月にジョブズがなくなった直後のエリザベスの言動に関する、セラノスの従業員グレッグの次の証言は滑稽であると同時に、そうした単純な思考のCEOが率いるスタートアップが多額の資金を集めた現実に唖然とさせられる。

 A month or two after Jobs’s death, some of Greg’s colleagues in the engineering department began to notice that Elizabeth was borrowing behaviors and management techniques described in Walter Isaacson’s biography of the late Apple founder. They were all reading the book too and could pinpoint which chapter she was on based on which period of Jobs’s career she was impersonating.

 「ジョブズの死後、一カ月か二カ月たった後、グレッグのエンジニアリング部門の同僚たちは気づき始めた。エリザベスが、ウォルター・アイザックソンの手によるアップル創業者の伝記に書かれている行動や経営手法を借りていることを。みなも同じその本を読んでいたので、エリザベスが真似しているのがジョブズのキャリアのどの時期のもので、本のどの章に出ていたかをピンポイントで分かった」

 自らをジョブズの再来と信じるエリザベスの独善的な振る舞いを助長し、反対意見を許さない企業文化の醸成に一役買ったのが、セラノスのナンバー2だった通称サニーで知られる元起業家の男だった。エリザベスより20歳以上も年上にもかかわらずサニーはエリザベスと恋愛関係にあったという。

 サニーは徹夜してでも働くことを従業員たちに求め、監視カメラで社員の出社や退社時刻を監視した。社員のメールでのやり取りにも目を光らせ、会社に対して批判的なことを言う人物は次々に解雇した。辞める人間には会社の内情を洩らさないよう守秘義務契約に改めて署名することを求め秘密主義を徹底した。

関連記事

新着記事

»もっと見る