世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年7月18日

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 6月24日、トルコでは大統領選挙と議会選挙が実施され、エルドアンは大統領に再選、議会は極右を含む与党連合が過半数を制する結果となった。

(excentric_01/BalkansCat/iStock Editorial/Getty Images Plus)

 エルドアン大統領は、4月18日に、大統領選挙と議会選挙を18カ月前倒しして6月24日に行うことを表明した。彼は、新たな憲法に規定される大統領制への不安定な移行期を短くしたい(大統領制には次期大統領選挙の後に移行するとされていた)と述べたが、変調が見られる経済の状況が時間とともに更に悪化するリスクを避けることを意図したものだというのが大方の観測であった。昨年は7.4%の成長を見たトルコ経済であるが、トルコ・リラは今年に入って20%以上、2013年以来50%以上下落した。これに伴いインフレは二桁という悪循環に陥っている。負債で行き詰った巨大企業もある。

 野党は予想外に強いところを見せたとも言える。野党は連合を組んで結束を見せた。この連合によって最大野党で世俗主義のCHP(共和人民党)はIyi(善良党)その他イスラム主義の小政党とも組むことになった。CHPの創始者は、イスラム主義を排して世俗主義を基本路線とした、建国の父ケマル・アタチェルク初代大統領である。ケマル・アタチュルクは泉下で驚愕しているのではないだろうか。Iyiが選挙に参加する資格(少なくとも20名の議員を有する政党であることを要する)が問題視されるに至ると、CHPは15名の議員をIyiに移動させた。両党は大統領選挙がエルドアンとの決選投票になる場合には、決戦投票に残る候補を一致して支持することで合意していた。CHPの大統領候補インジェはじめ、野党は、新憲法を廃止して議院内閣制に戻ること、非常事態宣言を解除することを訴えた。

 選挙が近付くにつれ、エルドアンが最初の投票で50%の票を取ることは難しく、決選投票になるのではないかとの観測が出るようになった。また、議会は野党連合に加わっていないクルド系のHDP(国民民主主義党)が得る議席数にもよるが、与党が過半数割れに追い込まれ、大統領と議会の多数派が異なるねじれが起こる可能性があるのではないか、との予測すらあった。

 結果としては、大統領選挙ではエルドアンが予想以上の差でインジェを引き離し、50%を超える票を獲得した。事前の世論調査の数字に比してインジェは振るわなかった印象である。議会選挙での予想外の出来事は、AKP(公正発展党)と組んだMHPが予想の数字の2倍の11%の得票率で49議席を獲得したことである。AKPは得票率で2015年11月の前回選挙を7ポイント下回り、295議席であった。定数600の過半数には届かなかった。MHPと合わせて過半数を得た。今後MHPの発言権が強まるであろう。その結果、クルドとの和解は更に遠くなると思われる。

 野党が健闘したことに希望を見出そうとする見方もあるが、意図して世論の分極化を図り、ナショナリズムを煽って権力の浮揚につなげる政治は健在である。欧米諸国にとって、エルドアンとの付き合いがより厄介になることはあっても、容易になることは期待出来そうもない。エルドアンにとって落とし穴があるとすれば、それは経済であろう。権威主義的独裁者といえども、経済は思い通りにはならない。エルドアンはイスタンブールに取扱旅客数5000万人の巨大国際空港を建設している。その次には黒海とマルマラ海を結ぶ運河の建設という野心的計画を有するらしい。この種の巨大プロジェクトが雇用と所得、それに票の源泉だということらしいが、躓きの原因になるかも知れない。

  
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