児童書で読み解く習近平の頭の中

2018年7月12日

»著者プロフィール
閉じる

樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

子供たちの世界では2年も早く始まっていた「文革」

 『石荘児童団』出版の翌年には、同じく上海人民出版社から同じような書名の『草原児童団』が出版されている。

 舞台が長江下流域の水郷で子供たちが退治した敵は日本軍であった『石荘児童団』とは違い、『草原児童団』の舞台は内蒙古の草原で、子供たちが立ち向かった敵は「地主、富農」であり、彼らと結託して社会を大混乱に陥れ社会主義社会を転覆させ封建社会の復活を目論む土匪である。

 「東の空が紅く輝き、太陽が昇る。毛主席の英明な指導によって草原は解放された。至るところに紅旗が翻り、農民は地主を倒し、農地を分け合い、喜びの気が充ち溢れる。児童団は喜び勇んで地主と富農の監視活動に努める」と書き出される。最初の数行からして、すでに「毛主席の英明な指導」である。こうなったら文革当時の「毛主席、万歳、万歳、万々歳!」までは、もう一歩だろう。いや、子供の世界では大人の世界に2年程先んじて文化大革命が始まっていたとも考えられる。

(Imaginechina/アフロ)

 『草原児童団』の主役は13歳の黒牛クン。彼は村の児童団の団長である。

 ある日、民兵隊の王隊長から「これから土匪討伐に出掛ける。地主や富農が土匪と連絡を取らぬよう注意して監視してくれ。異常があったら鉄柱アニキに報告だ」との命令を受け、黒牛クンは仲間と共に地主の「大花蛇」の屋敷を見張る。それにしても地主が大花蛇で、その妻が「狐狸精(バケモノ)」というのだから、名前を見ただけで子供にも地主は極悪人と判る。“見事な印象操作”というべきか。

 地主の家から外に向かう足跡を発見した黒牛クン率いる児童団は、それを追って草原を突き抜け山に向い、洞窟に隠れる大花蛇を見つけ出し、槍で脅して立ち木に縛り付け尋問を繰り返す。“正義”を手に入れた子供たちが毛沢東によって進められた土地改革に敵対する地主を攻撃・尋問するという構図は、文革において紅衛兵や紅少兵がみせた毛沢東の敵に対する残酷・残忍で血腥い仕打ちを彷彿とさせる。やはり子供の世界は、大人の世界に数年先んじて「革命無罪」「造反有理」が讃えられていたのだ。

 最後は鉄柱アニキと黒牛クンたち児童団が、地主や土匪を縛り上げて村に凱旋するシーンで幕となる。毛沢東思想式予定調和といっておきたい。

関連記事

新着記事

»もっと見る