2024年4月20日(土)

Washington Files

2018年7月17日

 では、トランプ政権以前の歴代共和党政権が同様に、環境保護の重要性を極端に軽視してきたかと言えば、必ずしもそうとも言い切れない。

 20世紀初頭、全米各地の自然公園、森林、史跡保全のために連邦政府管轄下の制度づくりに熱心だったのはセオドア・ルーズベルト大統領だったし、1970年に環境保護庁創設に踏み切ったのも同じ共和党のニクソン大統領だった。その後のジョージ・W.ブッシュ大統領の場合も、油田開発業界などとの親密な関係を維持する一方で、環境保護政策にも理解を示した。

 しかしその一方で、共和党の選挙地盤である南部の諸都市や中西部諸州の農鉱業事業家、ラストベルト(さびついた工業地帯)労働者たちの間で、じわじわと環境行政のしわ寄せに対する反感が広がりつつあったのも事実だ。

 レーガン共和党政権も少なくとも1期目は、民間事業へのこうした連邦政府の介入を極力最小限にとどめることをめざした「小さな政府」をスローガンに掲げ、環境保護政策見直しにある程度は取り組んできた。

 ただ当時は、予算や閣僚人事承認権限を握る連邦議会は民主党の多数支配下にあったため、露骨な環境保護政策の撤廃は控えてきたのが実情だ。

フリーハンド状態

 ところが、2015年1月からスタートした第114議会以来、上下両院ともに共和党が多数を制する結果となり、そうした中で登場したトランプ大統領にとっては願ってもないフリーハンドがあたえられることになった。

 しかも、共和党議会の重鎮たちは2016年大統領選挙では、トランプ候補に反対か冷ややかな態度をとっただけに負い目があり、トランプ政権発足後はホワイトハウスが打ち出す環境政策含め内外の理不尽な政策にも表立って異を唱えにくい立場だったといえる。
 
 そうした中、最近、大統領にとって頭の痛い騒ぎが持ち上がった。最も厚い信頼を寄せていたプルイット長官のあいつぐスキャンダルだ。

 おもに職権乱用、公私混同の個人的振る舞いをめぐるものだが、同氏は過去1年半の間に、

  1. ワシントンDC市内の一時滞在用高級マンションを石油業界ロビイストから月50ドルの特別家賃で借りつけていた。
  2. 数回にわたり私用でオクラホマの実家に帰省した際の往復チャーター便費用6万ドル分を公費として処理していた。
  3. DC市内の私用オフィスの防音装置工事費用として4万3000ドルを公費請求していた。
  4. 政権内のトランプ批判派洗い出しのため私的に契約したコンサルタント会社に12万ドルを公費から支払った。
  5. ステレオ・セット、旅行用充電器、高級ピストル・ケースなどを「備品」として請求していたなど、公費乱用の疑いで政府倫理管理当局の調査対象となっている案件だけでも最低14件に達しているという。

 そして結局同氏は、マスコミの厳しい追及と世論の批判を浴びて進退きわまり、ついに今月5日、辞任に追い込まれた。

 辞任自体はトランプ大統領自らのツイートで明らかにされたが、大統領はその中で「ミスター・プルイットは素晴らしい仕事をしてきた。私はつねにこのことに感謝している」と賛辞を贈る一方、長官の在任時代の傍若無人な行動への言及は一言もなかった。
 
 大統領は、後任としてアンドリュー・ホイーラー副長官を当面の間、代行として起用すると発表した。ホイーラー氏は公職に就く以前、大手鉱山会社やエネルギー開発会社のロビイストとして活躍したことでも知られる。

 どうやらトランプ政権下の“環境破壊施政”には、プルイット長官辞任後も、いささかも変化はなさそうだ。

  
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