Washington Files

2018年7月30日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 かねてからうわさされてきた、ひとつの見方は、トランプ氏が大統領候補に正式出馬する以前、実業家として何度もロシアを訪問した際に、KGBに監視され、とくにロシア人女性とのホテル宿泊先での行動について決定的証拠を握られており、プーチン氏も情報を入手済み、というものだ。

実業家時代から続くロシアとの関係

 しかし、こうしたプライベートなスキャンダルだけではなく、霧に包まれたより根深い問題がトランプ氏とロシアとの間に存在するとの指摘が、米マスコミや政界の間に広がってきている。それは、“不動産王”として名を挙げたトランプ氏の実業家時代の数々の事業に、莫大なロシア資金が流れ込んできたという事実に関係している。

 トランプ氏の事業は、1990年代から2000年代初頭にかけては、カジノ、ホテル、ゴルフ場、航空会社などの買収などを通じ規模は拡大一方だったが、成功例より失敗例の方が多く、負債はふくれあがりつつあった。一時は9億1600万ドルもの損失を計上したこともあるほどだった。

 その後、他の不動産会社がリーマンショックのあおりで苦境に陥っていたにもかかわらず、トランプ一族で固めた親会社「トランプ・オーガニゼーション」だけは、息を吹き返し始めていた。その理由は、ロシア政府と関係の深いロシア・マフィアやソ連崩壊後の同国新興財閥グループがトランプ氏に急接近し、とくにアメリカ国内でのトランプ氏の事業への投資活動を活発化したからだった。

 この点については、トランプ氏の長男で同社の筆頭役員だったドナルド・トランプ・ジュニア氏自身が去る2008年、モスクワで開かれた投資者会合の席上でのあいさつで「弊社の資産は不釣り合いなほどロシア人投資家によって構成されている」と公言したほか、次男のエリック氏も2014年、ゴルフ雑誌とのインタビューで「わが社が世界同時不況を乗り切ることができたのは、アメリカの銀行に依存せず、すべての投資資金をロシアから得ているからだ」と告白しており、ロシア・コネクションの深遠さがたんなるうわさではなく、実態を反映したものであることを物語っている。

 米週刊誌「ニュー・リパブリック」の調査報道によると、2008年当時からフロリダ半島の「トランプ・サニーアイルズ」と呼ばれるリゾート地帯には、多くのロシア人投資家が出入りするようになり、別名「リトル・モスクワ」と呼ばれるほどになったほか、トランプ・グループの拠点であるニューヨークの「トランプ・ワールド・タワー」76階から83階までの全フロアがロシア関連会社で占められているといわれる。

 しかし、トランプ氏が、大統領となってからも株を保有し続ける同社の過去から現在にいたるロシア関係取引の詳細については、依然として厚いベールに包まれている。そのひとつの理由は、大統領が過去の自分の納税申告内容の公表を拒否し続けているからだ。

 納税申告は個人の問題であり、公表義務はもちろんないが、過去半世紀以上にわたり、歴代大統領は大統領就任時に、忠実な納税者であることを自ら国民の前に示すため、率先して公表してきた。トランプ氏だけが「国税当局が自分の書類を審査中」であることを理由に、公表を避けてきた。

 内国歳入庁(IRS)は報道陣の追及に対し「書類審査中であっても、本人次第で公表できる」との立場を表明しているが、現在にいたるまで、トランプ氏のかたくなな態度は少しも変わっていない。

 最新の米キニピアック大学世論調査結果によると、全米有権者の75%が「大統領は国税申告内容を公表すべき」と回答しており、明らかに国民の意向に背を向けたものだ。

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