2024年4月20日(土)

公立中学が挑む教育改革

2018年7月30日

きつそうだけど、忙しそうだけど、先生たちは楽しそう

「社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない。だから自分たちで企画し、自分たちで実行してほしい」

千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長(編集部撮影)

 工藤氏のメッセージを体現するかのように体育祭を準備し、成功させた生徒たち。彼らの目には、今の大人はどのように映っているのだろうか。最も身近な存在として「先生たち」の印象を聞いてみたので、最後にぜひ紹介したい。記事にするために最低限の編集を加えているが、脚色はない。

「体育祭だけじゃなく、自分たちで企画する修学旅行なども、先生たちはほとんど関わりません。でも私たちが困っているときには、遠くでいろいろと考えてくれているのが伝わってきます。『あの子たちはこういうところで困るんじゃないかな』と、先を見て考えてくれているのを感じます」(実行委員長Mさん/3年生女子)

「自分たちで考えるというスタイルにさせてもらっていることにありがたみを感じています。ヒントは与えてくれるけど、答は教えてくれないという感じです。例えば体育祭なら、『みんなが楽しめる』という目的に沿って自分たちで企画できる。この環境に報いたいという思いがあります」(2年生男子)

「いろいろと自由にさせてもらっているな、と思います。自由な分だけ厳しいところもあるけど、とにかく自由。先生たちも自由で、過去のことにとらわれていません。『先生はその自由さが逆にきついんだろうな』とも思います。だけど楽しそう」(西軍応援団長Yさん/3年生女子)

「先生たちもまだ、この学校の独特の環境に慣れていないんだと思います。新しいことや難しいことに取り組んでいて、先生も挑戦している感じ。それがきつそうなんだけど、楽しそうに見えます。きついことや経験のないことをやるからこそ、楽しみが生まれていくんじゃないかと思いました」(東軍応援団長Mさん/3年生男子)

「麹町中は、先生同士の仲がとても良いことが伝わってくる学校です。生徒同士が仲良くできるよう、先生たちも協力しているから、自然と仲良くなれるのだと思います。自由な風土の中で、『忙しそうだけど楽しそうだな』という印象です」(生徒会長Aさん/3年生男子)

 きつそうだけど、忙しそうだけど、先生たちは楽しそう――。自分の頭で考え、悩みながらも前に進む大人を見ているからこそ、麹町中の体育祭は「生徒のもの」として生み出され、形になったのではないだろうか。

 生徒たちの言葉は、工藤氏がすべての教員と共有する「麹町中の最上位目標」とリンクしているようにも思う。

「世の中まんざらでもない! 結構大人って素敵だ!」

 麹町中の改革は、着実にその実を結びつつある。

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千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦

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▼連載『公立中学が挑む教育改革』
第1回:「話を聞きなさい」なんて指導は本当は間違っている
第2回:対立は悪じゃない、無理に仲良くしなくたっていい
第3回:先生たちとはもう、校則の話をするのはやめよう
第4回:教育委員会の都合は最後に考えよう
第5回:着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔
第6回:“常識破り”のトップが慣例重視の現場に与えた衝撃
第7回:親の言うことばかり聞く子どもには危機感を持ったほうがいい
第8回:保護者も学校を変えられる。麹町中の「もうひとつの改革」
第9回:社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない

第10回:人の心なんて教育できるものではない(木村泰子氏×工藤勇一氏)
第11回:「組織の中で我慢しなさい」という教育はもういらない(青野慶久氏×工藤勇一氏)
第12回:「定期テスト廃止」で成績が伸びる理由
第13回:なぜ、麹町中学は「固定担任制」を廃止したのか
第14回:修学旅行を変えたら、大人顔負けの「企画とプレゼン」が生まれた
第15回:「頑張る」じゃないんだよ。できるかできないか、はっきり言ってよ​
第16回:誰かと自分を比べる必要なんてない(澤円氏×工藤勇一氏)
第17回:失敗の蓄積が、今の自分の価値を生んでいる(澤円×工藤勇一)
第18回:教育も組織も変える「魔法の問いかけ」とは?(澤円×工藤勇一)
第19回:「言われたことを言われた通りやれ」と求める中学校のままでいいのか(長野市立東部中学校)
第20回:生徒も教職員も「ついついやる気になる、やってみたくなる」仕掛け(長野市立東部中学校)

多田慎介(ライター)
1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

  
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