2024年4月20日(土)

中東を読み解く

2018年7月30日

戦略なき米のシリア政策

 来るべきイドリブ県の戦いは「アルカイダ・IS連合軍」と、アサド政権軍とこれを支援するイラン系民兵軍団の攻防となるが、政権軍を後押しするロシアがまずは徹底した空爆を行うことになるのは確実だ。この戦いが始まった時、米軍はどう出るのだろうか。

 米国は現在、デルタ・フォースやレンジャーなど軍特殊部隊約2000人を駐留させ、IS掃討のクルド人に訓練や助言を行っている。しかし、トランプ大統領は「極めて近いうちに米部隊を撤退させる」などと言明し、米国防総省を慌てさせた。シリアから米国の軍事プレゼンスがなくなれば、ロシアや、アサド政権を援助しているイランの影響力が一段と強まり、中東における米国の影響力がさらに低下するのは避けられないからだ。

 しかし、米第一主義を掲げるトランプ氏の姿勢を見る限り、米国がイドリブ県の戦いに介入するとは考えにくい。米軍はじっと戦闘の推移を見守る可能性が高い。同氏は選挙期間中からシリアの将来には関わらないと主張してきており、アサド政権の交代などには元々興味がない。もっと言うと、頭の中には戦略的なシリア政策などはない、ということだ。

 一方で、アサド政権軍のイドリブ制圧作戦は容易には決着がつきそうにない。シリアの混迷が収まり、政治的に安定するには後、10年はかかるかもしれない。こうしてISの本拠地が混乱状況にある中、「カリフの国」を創建するというISの過激思想は世界中に拡散している。

 エジプト、リビア、イエメンといった中東諸国はもとより、アフガニスタンやパキスタンなどの西南アジア、フィリピン、インドネシアの東南アジア、そしてロシアにもその影響力は浸透しつつある。米国家テロ対策センターの高官は「ISは地球規模の結束を保っており、ISの発信するメッセージが世界の多くの人間から共感を得ている」(米紙)と懸念している。

 かつてアフガニスタンの“反共ムジャヒデーン”として生まれた「アフガン・アラブ」は発展してアルカイダとなり、イラクのアルカイダの残り火からISが誕生した。ISを中途半端に放置してしまえば、後になって世界は取り返しのつかない厄災を抱え込むことになるだろう。

  
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