したたか者の流儀

2018年8月8日

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パスカル・ヤン (Pascal Yan)

著述家

著述家。ルーヴァン・カトリック大学大学院中退(ベルギー)。証券マンとして25年間、欧州を中心に海外で過ごす。現在の職業は都内大学教授。

 

 街の肉屋さんに、牛肉61トン真空パックでくださいという注文が入ったら、即座に間違いとして取り消されるだろう。2005年、悲しいことに兜町では、注文が執行されてしまい大事件となったことがある。61万円で1株売りたいという注文を、あやまって61万株1円で売りたいと注文したのだ。その頃既に、個人投資家でも注文の明細がのぞける仕組みになっていた。

(maroke/Gettyimages)

 少し経験があれば、たとえ一株いくらで買っても利益が出るだろうと想像できた。結果として発注者は400億円ほどの損害をだす事件となってしまった。今思えば単純なうっかりミスであった。

 最近、同様にうかつではあるが、国民経済の根幹に関わるミスがあった。国民金融資産増強の要である投資信託がやっと増え始めて100兆円に回復したと歓迎していた矢先に集計していた日銀が30兆円ほど過分な齟齬があったと発表したのだった。

 たとえ訂正前の100兆円であったとしても米国家計の投信保有と比べたら数パーセントに過ぎないが、日本の実数が70兆円相当であったというのだから驚きである。

 さすれば「貯蓄から投資」がさらに遠のいていることになる。個人金融資産のうち投信や株式保有は国家の安定の要でもあろう。しかるにその拡大は遅々として進んでいないことの証しになってしまう。

 投資信託に関しては市況が好転するたびに日本中の金融機関が、笛太鼓でセールスをし、悪化すると放置してしまう。この繰り返しの結果、投信は半分が損との報道があった。

 そこで、金融リテラシーを人々に教えようと頑張ってみたが、散々話したあと講演会の最後の質問が、「ところで金融リテラシーって何ですか?」と聞かれて萎えた。

60歳以上のGDP

 その一方で、年金という言葉だけは年配者は素早く反応する。特に60歳以上が集まると必ず出る話題は三つ、孫、病気、年金だそうだ。これをG(グランドチャイルド=孫)D(ディジース=病)P(ペンション=年金)といって戯言に出来る人はまだ幸せだろう。

 かつては企業年金も企業側が運用していて高い利回りも保証していた。年金資金で企業も恩恵を受けた時代があり、もちつもたれつであったのだろう。今後の主流は日本版401(K)のDC年金となる。払いは確定で、受け取り額は不明ということになる。

 すなわち社員と企業がお金を出すのは同じだが、投資判断は社員がすることになる。その結果、運用成績が悪ければ悲しい老後がまっている。たとえば訪日中の米国の友達にフォーゼロワンkというと、とっさに真剣になるほど米国では、サラリーマンの関心事だ。

 日本版401(k)も米国同様、自己責任ながら投資信託で運用すべきであるが、実態は元金を減らしたくない方が多く年金運用を全部定期性預金という人も珍しくないと聞く。

 たとえば第二次大戦前の月給が100円程度、その後十数年で、ラーメンいっぱい30円になったことを考えてほしい。デフレムードは続くかもしれないが、やはり株式は強いことを肝に銘じるべきだろう。

 一方、東芝やシャープのような立派な企業に入社したとしても、いつの間にか外国の企業になり、たとえ会社名は残っていても部門が別の会社になるのも、日常茶飯事となっている。というわけで、持株会もかつての神通力はない。

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