補講 北朝鮮入門

2018年8月9日

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礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学准教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て2015年から現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 歴史的な米朝首脳会談から約2カ月となるが、北朝鮮の非核化に目立った進展は見られない。北朝鮮は核実験場の閉鎖や長距離ミサイル発射基地の解体といった措置を取っているものの、いずれも外部の専門家による検証を伴っていない。金正恩国務委員長がトランプ大統領との会談で示した「非核化の決意」と米朝関係改善への意欲が本物であるかへの疑念を抱かせる状況だ。

 ただ、これから数十年に亘って権力を維持しようとする金正恩委員長には、単なる「時間稼ぎ」をするような余裕はないはずである。非核化へ向けた「それなりの覚悟」を持って対米交渉に当たっていると考えられるのだが、それが現実のものとなるかは米国側の対応次第という側面が大きい。トランプ政権が中途半端な非核化で妥協する姿勢を見せるなら、北朝鮮はそれを徹底的に利用しようとするだろう。日本を含む周辺国は、そのようなことにならないよう米国への働きかけを続けていかねばならない。

(写真:ロイター/アフロ)

中長期的な展望切り開くための対話路線

 朝鮮戦争(1950〜53年)の休戦協定締結65周年を迎えた7月27日、北朝鮮は米兵の遺骨を米国側に返還した。米朝首脳会談での合意を受けた措置だ。この際、米国務省は「北朝鮮は金銭を要求しなかったし、いかなるカネのやりとりもなかった」と明らかにしている。

 北朝鮮が米国に要求しているのはカネではなく安全の保証である。3年間にわたって米国と戦火を交え、現在も休戦という法的に不安定な状況に置かれている北朝鮮は、米国の脅威を強く意識し続けてきた。米国に対する抑止力確保のための核・ミサイル開発は、建国の祖である金日成主席の時代からのことだ。米国は2000年代に入っても、アフガニスタンのタリバン体制やイラクのフセイン体制などを軍事力で崩壊に追いやってきた。

 金正恩政権は憲法に「核保有国」であることを明記し、経済建設とともに核保有を急ぐという「並進路線」を掲げて核・ミサイル開発のピッチを上げた。背景にあると考えられるのは、金正恩政権になる直前に崩壊したリビアのカダフィ体制の事例だろう。カダフィ大佐は米英との交渉で核開発をやめて経済制裁の解除という代価を得たものの、米英は「アラブの春」で起きた内戦で反政府側に立って軍事介入を行った。カダフィ体制は崩壊し、カダフィ大佐は殺害された。金正恩委員長にとっては、絶対に見習ってはならない教訓だ。

 しかし、並進路線は万能ということにはならない。抑止力であるはずの核兵器を保有しようとしたことで、むしろ米国側からの脅威は高まり、中国も国際制裁の隊列に加わったのが昨年の状況だ。経済制裁の強化は、北朝鮮経済にボディーブローのように効いてくるものであり、現時点で大きな効果が無くとも、このままでは中長期的な見通しを立てられない状況になってきた。若く、先の長い金正恩委員長にとっては大きな問題である。核保有国の地位を獲得したうえでこうした状況を打破しようというのが、今年に入ってからの対話攻勢への転換だった。

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