個人美術館ものがたり

2011年6月21日

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赤瀬川原平 (あかせがわ・げんぺい)

画家、作家

1937年、神奈川県生まれ。60年代にネオ・ダダイズムなど前衛芸術運動に参加。80年「尾辻克彦」名の『父が消えた』で芥川賞を受賞。『散歩の学校』『昭和の玉手箱』『千利休 無言の前衛』など著書多数。

若者たちを中心に賑わう表参道。でも地下鉄明治神宮前駅の5番出口から右へ少し進むと都会の喧騒は消えて、静謐さをうちにたたえた浮世絵専門の美術館が建っています。
中へ入ると外国人の来館者が少なくなく、作品と相まって不思議な気がしてくるのでした。

 場所は東京の原宿である。それも表参道の通りからほんの少し入った角の所で、立地はすごくいい。ここは若者が多くて賑やかな街だが、その一角だけはごく自然に静かで、落着いている。意外な感じだ。

 コレクションは浮世絵で、所蔵作品は版画のほかに肉筆画なども含めて、ざっと1万2000点。この数字はすごい。それでも関東大震災と戦災という2度の被害を受け、とりわけ関東大震災ではかなりの部分を失っている。

 取材のときは小林清親〔こばやしきよちか〕の企画展だった。清親は大好きだ。とくに光線画といわれる、夕景や夜景の光を描写した絵に痺れる。でも浮世絵全体の世界からは、清親の光線画は少々偏った画法として、際物的に見られている面があるようにも感じる。たしかに時代はもう浮世絵の末期で、本流からずいぶん外れそうな位置にあることは確かだ。でもそれだけに感覚的には現代に近く、ぼくはぐんと引きつけられた。

 清親の光線画の魅力は、夜の光の輝きが感覚的に描かれていることだ。それもリアルタイムでの感覚だから、何の注釈もいらずに、見てそのまま引き込まれる。そうだ、夜の光ってこうだよ、という具合に、見る者の既視体験が、その絵をどんどん磨き上げていくようなのだ。

 しかもその光の繊細な魅力が、柔らかい筆の肉筆画ではなく、硬い木版画であること。だから夜空に板目が見えていたり、版の色が多少ずれていたりするところで、むしろ見る人の想像力が中空に引き出されて、その絵がますます輝いてくる。

小林清親 「池の端花火」
明治14(1881)年

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