世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年9月3日

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 7月29日、カンボジアでは下院(国民議会、定数125)の総選挙が行われ、フン・セン首相の与党人民党(CPP)が全議席を獲得した。投票率は約83%であった。人民党は、去る2月の上院(元老院)の選挙でも、62議席のうちの選挙で選ばれる58議席の全議席を獲得している。昨年11月には最大野党の救国党(CNRP)が解党させられている。そうした中での人民党の両院支配は、事実上、人民党の一党独裁体制の成立を意味すると言ってよいであろう。フン・センは彼の子息を後継者にしたいようであるから、フン・セン王朝を作るつもりかも知れない。

(choness/nine_far/Andy_Di/Nattakorn Maneerat/undefined undefined/iStock)

 次の2点が今後の注目点となる。(1)カンボジアの強権政治を止めることができるのか。(2)カンボジアの対中傾斜を逆転させ得るのか。

 カンボジアは小さい途上国であり、特段戦略的に重要な場所にあるわけではない。既に中国に取り込まれていると思われている。それゆえ、ここに精力を使うことは無駄と思われがちである。従って、フン・センの強権政治に対する世界の関心は低いと言わざるを得ない。

 多くの民主主義国は総選挙を非難し、カンボジアの指導者に懲罰を課したものの厳しい措置は控えた。米国のトランプ政権は、今年に入ってから対カンボジア援助を減らしているが、中国が穴を埋めている。中国は選挙監視団を派遣し、選挙を称賛した。中国の「従属国」となったカンボジアに中国は援助を続けるであろう。同国の対外債務の70%は中国に対するものだという。

 米国議会では人民党および軍の幹部に金融制裁を課す法案が審議されている。また、米国もEUもカンボジアに対する特恵関税を停止し得る。しかし、それは、フン・センに「西側は貧しいカンボジア人を罰している」と主張する口実を与えることになろう。カンボジアの野党の政治家も、そうした措置にはなかなか賛成しがたい。

 西側は、カンボジアの独裁を止める手段についても、対中傾斜を止める手段についても、決め手に欠くように思われる。

 米外交問題評議会のJoshua Kurlantzick上席研究員は、World Politics Review に8月10日付けで掲載された論説‘Cambodia’s Crooked Election and the Tragedy of Its Postwar Period’において、「カンボジアを民主主義の方向に押しやる最良の時は民主主義の援助国の影響力が大きく、フン・センの力がまだ大きくなく、カンボジアの政治における中国のファクターが小さかった90年代であったであろう。救国党が2013年の選挙で躍進し、そのことがフン・センによる弾圧を招いたが、その時ですら日米欧州が介入し圧力をかけることが出来たかも知れない」と指摘、フン・センは中国の後ろ盾を得てカンボジアをしっかり掌握しているので最早手遅れかもしれない、としている。

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