坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2018年9月19日

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坂本幸雄 (さかもと・ゆきお)

現ウィンコンサルタント社長、元エルピーダメモリ社長

日本体育大学卒業後、日本テキサス・インスツルメンツに入社し、93年副社長。神戸製鋼所、日本ファウンドリー社長を経て、02年エルピーダメモリ社長。現在ウィンコンサルタント社長。

 本連載の最終回では、「ものづくり」に携わる経営陣に求められる力とその育て方について考えたい。

(Pom669/iStock)

 求められる力について一言で言えば、それは「斬新で柔軟な発想力」だ。ITの進化で短いサイクルのイノベーションが求められる今日、世の中の動きが分かり知識が豊富にある、というレベルの経営陣では通用しない。世の中の変化を先読みし、業界がどんな影響を受けるのか、自社が何をすれば顧客を満足させられるか、世の中に驚きを与えられるか、というビジョンを持ち続けることが必要だ。

 将来の経営陣候補にこうしたビジョンを持たせるために重要なことは、短期的な研修でも働き方改革でもない。実は、成果に対する正当な評価を基にした「生涯の生活の安定」こそがキーワードだ。

 米国では、有能であれば若い頃から高い給料が与えられ、役員就任時には「サインアップフィー」という特別報酬、それも一生安泰に暮らせるほどの金額が与えられる企業が多い。これがモチベーションに繋(つな)がるのは当然だが、実はそれ以上にこの「安定」がもたらす意識変革効果が大きい。

 米国の大企業の役員クラスと仕事をする中で、なぜ働くのかという質問をしたことがあるが、彼らは口を揃(そろ)えたように「画期的な製品を世の中に生み出したい」「会社を一流企業に成長させて従業員に喜びを感じさせたい」など、崇高な目的を話す。この意識が、イノベーションを生む源泉であるように感じる。

 一方、多くの日本企業では極めて優れた成果を残しても報酬は少なく、役員クラスであっても、年功序列型賃金がベースとなっている以上、給料は知れている。これでは、自分や家族の生活がかかっているため、上司の意向に常に従い、リスクのある挑戦もしない方が得だという考えが生まれやすくなる。

 日本企業で人事制度全体をいきなり変えることは難しいが、例えば役員就任時に、将来の退職金に大幅に上乗せした金額を与え、安泰な生活を保証した上で、数年間の雇用契約を結ぶのはどうか。その後、成果を残せば継続して活躍してもらえばいい。こうすることで、建設的なビジョンを持って働くマインドが生まれやすくなるのではないか。

 報酬面での配慮に加え、斬新で柔軟な発想力を持つ社員を評価する風土も不可欠だ。私は日本体育大学卒業後、テキサス・インスツルメンツに倉庫番として入社したが、どんな小さな仕事でも必ず改善を続け、会議でも他の人が思いつかないような提案をし続けた。こうした姿を見た上司は、私をいきなり課長に引き上げた。これは役職や年齢を気にしない米国人の上司だったからできたことであり、私の人生の転機となった。

 「人は財産だ」という日本企業は多いが、成果が正当に評価され、建設的なビジョンを持って働ける会社こそ真に人を大切にする会社であり、「ものづくり大国」として返り咲くために必要なことだ。

  
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◆Wedge2018年9月号より

 

 

 

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