2024年4月26日(金)

佐藤忠男の映画人国記

2011年6月20日

 西村晃(1923~97年)も札幌市出身。ただし子どもの頃に大阪に移っており、芸風も北海道出身者に多い重厚さより大阪的な軽味が身についている。学徒動員世代で特攻隊員の生き残りであり、戦後に新劇の俳優になった。私が記憶している最初の彼は映画「雲ながるる果てに」(1953年)の特攻隊員であり、出撃するまでデタラメにふるまう男である。そのデタラメ調が注目されて、そのごはもっぱらダメ男や気の小さいワルという役が多かったが、そんなサラリーマンで名演だったのは今村昌平の傑作「赤い殺意」(1964年)で、昼間バカにしている女房の布団に夜は「カアチャーン」と言ってもぐり込むあたりが絶品だった。晩年はテレビの「水戸黄門」シリーズの何代目かの黄門様。

 すまけいは国後島出身。新劇からアングラ劇に移り、井上ひさし作品によく出演して注目された。山田洋次監督に認められて「キネマの天地」(1986年)の映画監督役などで喜劇味のある好人物をよく演じている。

 小日向文世は三笠市出身。やはりアングラ劇で芸を磨いて、善人から悪人まで、じつにスマートにこなす名脇役となってテレビや映画で大活躍である。「それでもボクはやってない」(2007年)の裁判官など、とても頭のいい冴えた好人物の判事のように見えて、疑わしい判決をさわやかに言ってのけるという水際立った演技だった。

 室田日出男(1937~2002年)は小樽市出身。東映の暴力団映画でもっぱらギャングや犯罪者、暴力団員を演じて凄みを利かした。

 千秋実(1917~99年)は天塩国恩根内村(現美深町)出身。新劇出身だが新劇と大衆演劇の中間をめざして菊田一夫の戯曲などを上演。それを黒澤明が見て、以後黒澤作品には欠かせない重要な脇役となった。「七人の侍」(1954年)の気のいい凡庸な侍などが有名だ。

エリートコースから外れたキャリア警部・杉下右京(水谷豊)が、次々と事件を解決
『相棒 season 1』
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ワーナー・ホーム・ビデオ

 水谷豊は芦別市出身。ただし東京育ちである。若い頃から二枚目スターとして活躍していたが、近年テレビと映画の「相棒」シリーズで大ブレーク。乱暴な言葉づかいが普通だった刑事役をまことにいんぎん無礼なていねいな言葉づかいと物腰で演じるという逆手が大成功で一家をなした。

 監督では小林正樹(1916~96年)が小樽市出身である。代表作の「人間の條件」(1959年)の満州の広野は北海道ロケで撮った。「切腹」(1962年)や「怪談」(1965年)など、重厚壮大な作品で世界の映画史に名を残した。

 工藤栄一(1929~2000年)は苫小牧市出身。東映の時代劇の全盛時代に活躍し、とくに先頃リメークされた「十三人の刺客」のオリジナル版(1963年)は集団時代劇の名作と言われた。

 若手の熊切和嘉は帯広市の生れである。近作の「海炭市叙景」(2010年)は函館市をモデルにした短篇小説集を原作として,函館市民の全面的な協力のもとにオール函館ロケで撮った映画の佳作として評判になった。北海道出身ということで地元の自主制作グループによって盛り立てられた結果だった。(次回は富山県)
 

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