海野素央の Love Trumps Hate

2018年9月3日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

感情移入の欠如

 オマロサ氏は、昨年9月に米国南部と米自治領プエルトリコを襲った3つの大型ハリケーンに関するトランプ大統領の対応を比較して、同大統領を感情移入の能力が低い人間であると結論づけています。

 ハリケーン「ハービー」が昨年の8月下旬、テキサス州を直撃すると、トランプ大統領は現地に2回入りました。一方、ハリケーン「イルマ」が9月10日フロリダ州に上陸すると、トランプ氏は4日後に現地に向かっています。

 ところが、ハリケーン「マリア」に対するトランプ大統領の対応はうえの2つのハリケーンとは相違します。ハリケーン「マリア」が9月20日にプエルトリコを襲っても、トランプ大統領は10月3日まで現地視察をしませんでした。

 トランプ氏はやっとプエルトリコを視察すると、現地で感受性に欠けた行動をとりました。被災者に向かってペーパータオルをバスケットボールのように投げつけたのです。加えて、記者会見で「16人の死者はカトリーナのような本物の大災害と比較すれば何でもない」と語ったのです。

 05年8月に南部ルイジアナ州に上陸したハリケーン「カトリーナ」による死者数は1833人でした。それに対して、ジョージ・ワシントン大学が18年8月28日に発表した研究によると、ハリケーン「マリア」による死者数は2975人で、カトリーナのそれを1000人以上も上回っています。オマロサ氏は、プエルトリコでのトランプ大統領の言動は、被災者に対する感情移入が完全に欠如していたと批判しています。

ナバホ族の暗号通信兵とトランプ

 さらに、本書ではトランプ大統領の無神経さが描かれています。トランプ氏が17年11月27日、第2次世界大戦で活躍した米海兵隊の先住民ナバホ族の暗号通信兵をホワイトハウスに招いたときのエピソードです。トランプ氏は、彼らを称える行事におけるスピーチで、20年米大統領選挙の民主党候補に名前が挙がっているエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党・マサチューセッツ州)をいつものように実在の先住民女性の名前である「ポカホンタス」と呼んでからかったのです。

 オマロサ氏は行事が終了すると、即座にトランプ大統領に向かって「ナバホ族の暗号通信兵を表彰する行事なのに、あなたは彼らを侮辱した」と指摘すると、同大統領は「エリザベス・ウォーレンを侮辱したんだ」と反論しました。

 オマロサ氏はトランプ大統領が第7代アンドリュー・ジャクソン元米大統領の肖像画の前でスピーチを行った点も、感情移入に欠けていたと述べています。ジャクソン元大統領はトランプ氏のお気に入りの大統領なのですが、1830年インディアン強制移住法に調印した大統領だからです。

 この移住法によってチェロキー族は、現在のオクラホマ州に強制的に移動させられ、1300キロの道程で約4000人が亡くなったといわれています。いわゆる「涙の旅路」です。オマロサ氏によれば、このような歴史的背景を考慮せずに、トランプ氏はスピーチを行ったのです。

 余談ですが、筆者はこの行事の映像を昨年11月に観ました。行事に出席した米海兵隊出身のケリー大統領首席補佐官が、硫黄島での戦いを例に出して「日本軍はナバホ族の言語を解読できなかった。彼らは海兵隊にアドバンテージを与えた」と称賛していたのが印象に残っています。要するに、米軍は文化的多様性を活用したということです。

 本論に戻りましょう。オマロサ氏はトランプ大統領が争点に対してどのようにして対処しているのかに関しても説明をしています。

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