Washington Files

2018年9月3日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

ベトナムで捕虜になったマケインと、ベトナムから逃げたトランプ

 トランプ氏はマケイン氏とはかねてから、同じ共和党ながらあえて一定の距離を置いてきた。背景には、2016年大統領選でトランプ氏が立候補した際に、「共和党の良心」ともいわれてきたマケイン氏から自分の破天荒ともいえる言動を折に触れ批判されてきたことがある。

 しかし、二人の関係に決定的くさびを打ち込んだのは、トランプ氏のある発言だった。

 大統領選の最中、遊説先の演説でマケイン氏にこう牙を剥いたのだ。「ジョン・マケインはベトナム戦争で捕虜になったから英雄視されてきた。私は捕虜にならずに戦った兵士の方を評価する。彼はヒーローではない」

 マケイン氏は当時、海軍パイロットとして北ベトナム空爆に参加したが、ハノイ上空で撃墜され軍収容所で捕虜の身となった。この間、たまたま同じ軍人の父親が太平洋軍司令官に抜擢登用されたことに恐れをなした北ベトナム側は、彼を釈放しようとしたのに対し、「他にも同様に過酷な捕虜生活を強いられている同志たちを置き去りにできない」とこれを自ら断り続け、5年後に戦友たちと一緒に解放されるまで収容所から離れなかったという武勇伝がある。

 度重なる拷問にも耐え抜いて帰国したマケイン氏が、まさに国民的英雄として熱狂的に迎え入れられたことは言うまでもない。
 
 ベトナム戦争では5度も徴兵を逃れたそのトランプ氏が、マケイン氏の心底にまで沁み通った戦争体験を頭ごなしに批判したことは、マスコミでも大きく報道されたが、一番傷ついたのは本人とその家族だった。

 昨年暮れから脳腫瘍が悪化、その後治療もままならず自ら死期の接近を予感しつつあった今年5月、家族と相談の上、葬儀の段取りなどにも触れた遺言まで準備していた。そしてその中には「葬儀の際には政府を代表して副大統領に出席してほしい」との記述まであった。トランプ大統領の参列をあえて固辞したことが明らかになり、それが今回、当人の死去に対する大統領の冷え切った反応につながったと受け止められている(本欄5月14日付け「『わが葬儀には副大統領を』大物議員、異例の遺言でトランプに肘鉄」参照)

 しかし、普段からぎくしゃくした関係だったとはいえ、生涯を終えた現代の英雄に対するトランプ氏の最高司令官としての振る舞いを弁護する声はあまり聞かれない。

 カーター元大統領は「彼(大統領)はきわめて深刻な過ちを犯した。批判を受けてあとから弔意のメッセージを出したが、あれも不十分だった」とテレビ・インタビューで率直な印象を語った。

 共和党で最長老のオーリン・ハッチ上院議員も、ホワイトハウスが半旗にしなかったことについて「あってはならないこと。考えるまでもなくただちに半旗にすべきであり、これは良識の問題だ」と大統領を諭した。

関連記事

新着記事

»もっと見る