栄養学から考える「食と健康」

2018年9月10日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

サラダチキンに飛びついたら食塩摂取量が増える

佐々木:体を変えてゆくには、「今からどれくらい変えられるか」という栄養素摂取の変化量が重要なんです。だから、これまでの個人の食生活の評価が必要です。

 不思議なのは、「フレイルが怖いから、タンパク質を摂りなさい」とみたいな情報が大量に流れて、多くの人がその都度あせっていることです。でも現状、自分がどれくらいのタンパク質を摂っているか知らないし、どの程度摂ったら良い、という目安も知らない。

*フレイル:加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態

松永:たしかにフレイルは怖い。昨今の低糖質ブームも相まって、自分が日常的に食べているタンパク質の量も知らないまま、「じゃあ、サラダチキンを食べていればいいんじゃないの?」とサラダチキンがブームになる。

佐々木:サラダチキンは、食塩含有量が多いですよ。脂肪が少ない高品質タンパク質を摂って大丈夫と思っていると、食塩の摂取量が増える。これが食品ですね。鶏のささみを冷凍しておいて、電子レンジで解凍加熱して食べればいいんだけどなあ。

サプリメントに頼る愚かしさ

松永和紀さん(撮影:監物南美)

松永:「体に良い」と言われて、健康食品、サプリメントを摂る人も多いです。

佐々木:基本的な知識がないのに、周辺の特殊な栄養素の勉強ばかりしている。これが現代社会のように思えます。飽和脂肪酸は英語でsaturated fatty acid、すなわちSFAです。このSFAという言葉は知らないのに、EPAやDHAは知っている。EPAやDHAの不足よりもSFAの取りすぎのほうが生活習慣病への悪影響が大きいために、諸外国では加工食品に付けられる栄養成分表示にSFAの含有量を含めるなどして、SFAの食べ過ぎへの注意喚起をしています。ところが、日本の栄養成分表示にはSFAは入っていません。

松永:日本では、栄養成分表示が義務化されましたが、熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム(食塩相当量で表示)の5項目のみ。飽和脂肪酸は、表示が推奨されているだけです。しかも、加工食品への栄養成分表示義務づけは経過措置期間があり、平成32年(2020年)3月までに移行すればよいことになっています。

佐々木:日本人の何%がSFAを知っているか? 重要性の小さな情報を取り入れて食生活を改善したつもりになっているけれど、大きなものがすっぽり抜けているのが今の日本の社会ですよ。

松永:まずは、自身の栄養状態の把握が大事なのに、これが良い食品、悪い食品という情報に踊らされ、これさえ食べれば、というようなサプリメントの広告宣伝に流されて、高いお金を払って健康を得た気分になっている。

定期検診に、疾患リスクを予測できるBDHQの導入を

佐々木:BDHQをやってもらえれば、目の前の食事のベストアンサーを教えてくれます。企業の定期健康診断、人間ドックというのは不思議ですよね。血液検査をやって、「あなたは糖尿病ですよ」とか「高脂血症ですよ」と教えてくれる。会社が潰れてから「潰れていますよ」と教えてくれることがなんの役に立ちますか? 企業経営者であれば、現在の健康診断が理論的におかしいことがすぐにわかるはずです。

 上司だったら、部下の体が壊れてから判定するのではなくて、「この人は危ないから、早く救わなければ」というふうに本来考える、と思うのですが。食事の問題が疾患リスクの上昇につながる、食事が疾患予防の基本である、ということははっきりしています。

 医学研究は相当に進んでおり、「こういう食事をしている人たちに指導し、この栄養素の摂取量がこの程度減ったら、○カ月で検査数値がこれくらいは下がる」というような予測も、具体的にできるようになってきています。「個々人の食事から見える将来のリスクを把握し、改善を促す」ということの重要性に気付くべきです。

松永:BDHQはまだ、個人が気軽に受けられる、というわけではありません。生協のように、企業や行政機関等が定期健康診断にBDHQを取り入れてくれたらよいなあ、と思います。まずは、佐々木先生のご著書を多くの人に読んでもらいたい。読んでも、「あれは良い、これは悪い」という単純な解答は教えてもらえません。でも、自分の食生活を見つめる手がかりがたくさんある。自分で考えて健康を管理し、楽しく食べてゆきたい、と思えるようになります。

 佐々木先生、長時間お話しくださって、どうもありがとうございました。

(図表/『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』『佐々木敏の栄養データはこう読む!』月刊誌『栄養と料理』(女子栄養大学出版部)から)

『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』(女子栄養大学出版部)















 















 

<出典>
論文9:Asakura K, et al. School lunches in Japan: their contribution to healthier nutrient intake among elementary-school and junior high-school children. Public Health Nutrition: 2017;20:1523–1533
https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/FBF24BF92586B4085E198E18B6F03A10/S1368980017000374a.pdf/school_lunches_in_japan_their_contribution_to_healthier_nutrient_intake_among_elementaryschool_and_junior_highschool_children.pdf

論文10:Asakura K, et al. Estimation of sodium and potassium intakes assessed by two 24 h urine collections in healthy Japanese adults: a nationwide study. Br J Nutr 2014; 112:1195-1205
https://www.cambridge.org/core/journals/british-journal-of-nutrition/article/estimation-of-sodium-and-potassium-intakes-assessed-by-two-24-h-urine-collections-in-healthy-japanese-adults-a-nationwide-study/19344269A9B68C4BC41D440B005BD344

 

  
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