2024年4月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年9月11日

 上記プーチンの発言も端的に示す通り、ドイツのガスのロシア依存度は高い。2017年のロシアからのガス輸入は538億立方メートル、ノルド・ストリーム2の輸送能力は年間550億立方メートルである。2020年の稼働を目指す同パイプラインが完成すれば、ドイツは現在の倍の量のガスを輸入し得ることになる。

 経済的側面だけを見れば、ノルド・ストリーム2は合理的である。オランダとノルウェーのガス生産が逓減しつつある中、欧州にとって、とりわけ脱原子力と脱石炭を目指すドイツにとって、代替となる安定的な供給源が必要である。比較的安いロシアのガスを利用出来れば好都合であろう。また、ドイツの化学企業にとってはシェール・ガスを利用できる米国のライバルに対抗する上で歓迎すべきことであろう。東欧の中間企業を経由せずに、直接ロシアのガスプロム社からガス調達して転売することも可能になるかもしれない。

 しかし、戦略的側面を看過すべきではない。ノルド・ストリーム2は、ロシア依存を深め、固定化する。ロシアからドイツに直接ガスを供給するルートが強化されれば、ロシアが東欧諸国への介入にガスを梃として使う自由度を高めることになる。そういうわけで、ポーランドなどの東欧諸国およびバルト諸国は、同プロジェクトに反対している。これらの国々とプロジェクト参加国、とりわけドイツとの亀裂は、欧州の安全保障にマイナスである。ノルド・ストリーム2によってウクライナ経由の輸出に対する依存度が下がれば、ロシアがウクライナの全面的な侵攻を企てる障害が除去されることにもなる。欧州委員会も、供給源を多様化しロシア依存を減らすという政策に反するとして支持出来ないとの立場であるが、これまで実効性のある措置を講じてこなかった。

 トランプ米大統領は、7月にNATO首脳会議に出席した際に、ストルテンベルグNATO事務総長との会談で「ドイツはロシアの捕虜となった。ロシアから多量のエネルギーを得ているからだ」と述べた。トランプの表現は乱暴に過ぎるが、あながち見当外れともいえない。米国は、オバマ政権の時代からノルド・ストリーム2に反対している。

 ホワイトハウスは「ノルド・ストリーム2を何としても阻止する」と言っているとも報じられている。昨年8月に米議会で成立した対ロ制裁法に基づき、トランプ政権がノルド・ストリーム2のプロジェクトに参加している欧州の5つの企業に制裁を科すようなことがあれば、同計画の大きな障害となり得る。とはいえ、トランプ政権が、そこまで対ロ関係悪化のリスクを冒すとは考え難い。ノルド・ストリーム2の建設はもはや止められず、欧州の安全保障にとり不安要因となり続けるように思われる。
 

  
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