2024年4月19日(金)

解体 ロシア外交

2018年9月6日

まずは日本の技術協力が真に求められる分野で努力を

 とはいえ、領土問題を直球で投げても、ロシアは態度を硬化させるだけであり、やはり現状のようにまずは経済協力などから関係を深めていくのが現実的である。先述の通り、共同経済活動は「やってもやらなくてもいい」と言われてしまっているが、ロシア側が本当に求めている分野であれば、協力は可能であろうと考え、筆者は現地の人たちにヒアリングをし、どういう分野なら日本と協力をしたいのかという生の声を集めた。その結果、以下のものであれば、日本の技術協力を強く求めているということがわかった。

(1)ゴミ処理施設
現地ではゴミが一箇所に放置されているだけで、カラスが群がり、あちこちで自然発火していた。

色丹島に放置されたゴミ。カラスが集り、自然発火している

(2)工場生産などでの新鮮な野菜の栽培技術
日揮がハバロフスクで行っている温室野菜栽培施設などを想定していると思われる。先述のように、現地ではかなり裕福な暮らしがなされているものの、新鮮な野菜や果物が買えないという。コストは厭わないので良い食べ物を入手したいという。

(3)小売販売網の整備
(2)に関わるが、小売販売網が整っていないため、良いものを買うためにはサハリンなどに買い出しに行かなければならない。

(4)医療の整備
病院の整備、医師の本土からの派遣により、随分と医療の質は良くなったが、日本に頻繁に患者が治療にきていることからもわかるように、やはりロシア極東や北方領土での医療は十分ではない。

 これら要望の多くは、8項目の経済協力プランにも含まれていることではあるが、特にこれら住民の要望が強い問題について積極的に実現を進め、現地住民の日本との協力への関心を喚起してゆくことが重要だと考える。

 北方領土の現状は、日本への返還を願う日本の立場からすれば決して喜ばしくはない。しかし、日本の大切な領土が荒れ果てたまま放置されていたとしたら、それは辛いことである。日本は現状をしっかり受け止め、日本国民の領土問題に対する意識を喚起しながら、国際的にも日本の立場をアピールしつつ、ロシアと経済協力を通じた信頼醸成、粘り強い政治交渉を行って行くべきだろう。


  
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