韓国の「読み方」

2018年9月10日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

ころころ変わってきた兵役免除の対象

 ここで「あれ? WBCは兵役免除の対象じゃないの?」と思われた読者は記憶力の良い人だろう。WBCでの4強入りが兵役免除の要件になっていたこともあるからだ。実は、兵役免除の対象はころころ変わっていて、この点も批判の対象になっている。

 韓国兵務庁によると、兵役免除の制度は軍事独裁だった朴正煕政権下の1973年に国威発揚につなげようと導入された。まだ貧しい開発途上国だった韓国では五輪メダリストの量産など考えられなかった時代だ。それだけに、五輪だけでなく世界選手権とユニバーシアード、アジア大会、アジア選手権どれでも3位以上なら対象とされた。さらには、韓国体育大の卒業成績上位10%以内という“大盤振る舞い”までされた。

 これが、1988年ソウル五輪を経てスポーツ強国となってくると、さすがに対象者が増えすぎたことで批判世論が強まった。そのため90年に基準を「五輪の銅メダル以上、アジア大会は金メダルだけ」と対象を大幅に縮小された。そこへ2002年のサッカー日韓ワールドカップ(W杯)でW杯16強以上も対象に加えられた。地元開催のW杯を盛り上げ、悲願だった16強進出をということだったのだろう。さらに06年にはWBC4強以上も兵役免除とされたものの、08年の制度改正でW杯とWBCは対象から外された。現在の対象は再び、「五輪の銅メダル以上、アジア大会は金メダルだけ」である。

クラシックは良くて、なぜBTSは駄目なのか

 朴正煕政権が導入した兵役免除の対象はスポーツだけではなく、芸術も対象とされた。当初の基準は「国際規模の音楽コンクールで2回以上の優勝または準優勝」である。こちらも時代によって対象の大会が移り変わる。一時は、国際音楽コンクールが123大会、舞踊が17大会、国際コンクールのない伝統芸能分野の国内コンクール8大会にまで増えたが、さすがに多すぎるとなって現在は48大会119部門の上位入賞者が対象となっている。

 ただし、こちらはピアノやバイオリン、韓国の伝統芸術といったクラシック系が対象で、K-POPなどの大衆芸能は入っていない。ところが最近の韓国では、K-POPが世界で愛されているという話題で盛り上がることが多い。クラシック芸術での国際コンクール優勝より、「江南(カンナム)スタイル」の世界的流行や防弾少年団(BTS)のビルボード・アルバムチャート1位の方がずっと身近で誇らしいのだ。それだけに国会でも「クラシックならよくてBTSがなぜ駄目なのか」という疑問が提起された。

 文在寅政権が8月末に発表した内閣改造でも兵役免除が問題となった。副首相兼教育相に指名された女性政治家の二男が膝の靭帯破裂を理由に兵役を免除されていたからだ。もちろん病気やケガも正当な理由ではあるのだが、有力政治家の息子の兵役免除は「またか」と受け止められる。結局は「のど元過ぎれば…」となるような気もするのだが、兵役免除はしばらく熱い問題となりそうだ。
 

  
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