世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年9月17日

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 8月27日、米国とメキシコは、NAFTA再交渉をめぐり、新たな二国間合意に達したと発表した。再交渉は昨年8月に開始され同年末の合意が目指されていたが、貿易赤字を減らすべく有利な変更を強く求める米国と、カナダ・メキシコとの間の条件が折り合わず、長引いている。メキシコとの合意を優先しカナダを後回しにしたことになる。今回の合意で最も重要な分野は自動車関連である。凡そ、次のような内容である。

(MorningDewPhotography/ptasha/Fredex8/Studio_Serge_Aubert/iStock)

(1)    完成車の原産地規則:現地調達率75%、エンジン等特定部品についての域内調達義務、鉄鋼・アルミ材料の70%の域内調達義務、付加価値の40%(ピックアップトラックは45%)が時給16ドル以上の労働者により生産されること等。

(2)    輸出車:年間240万台の上限

(3)    自動車部品:重要度に応じて75%、70%、65%の3段階の原産地規則。年間900億ドルの対米輸出合意枠。

 完成車の原産地規則については、かなり米国の主張が実現されたと言える。輸出車の上限については、2017年の対米輸出実績が約170万台であったので、直ちに問題になることはないであろう。また、自動車部品の対米輸出枠900億ドルについても、2017年の実績は630億ドルであったので、まだ余裕がある。

 これらの改定により、一時的には米国内の工場や部品企業が潤うかもしれないが、結局は、北米で生産される自動車の生産コストを高め、米国自身の自動車の輸出競争力を低下させていくことになろう。メキシコは、EUや日本など40か国を超える国々とFTAを締結しているので、米国以外の国への市場開拓に努力すると思われる。

 次の焦点は、カナダの参加問題である。トランプは「カナダが参加しなくてもメキシコだけとの合意で手続きを進める」と述べたが、それは難しい。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の8月30日付け社説‘No Nafta Redo Without Canada’は、次の2点を指摘する。第1は、米国とカナダとの間の経済依存度の高さである。米国の33の州にとってカナダは最大の輸出先である。第2は、法的問題である。NAFTAの改定ということでファスト・トラック(無修正一括承認的続き)が認められているのであって、米国とカナダの二国間協定ではこの手続きは認められず、上院で60票の賛成票が必要になるという意見があるという。したがって、カナダの参加は不可欠であるということになる。両国間の論点のなかで最も重要なのは、アンチ・ダンピング関税や相殺関税についての紛争解決パネルに関する第19章である。米国は削除を主張し、カナダは残すよう主張している。カナダの酪農製品関税も大きな対立点である。カナダのフリーランド外相とライトハイザー米通商代表が精力的に交渉しているが、予断を許さない。

 カナダの参加問題とともに、米国議会の対応が今後の事態を左右する要因となる。11月の中間選挙の結果、共和党が議会で過半数を失うようなことになれば、協定の承認が拒否される可能性も出て来る。そうした政治的理由のみならず、上記ウォール・ストリート・ジャーナルが指摘するように、ファスト・トラックは、米・メキシコ・カナダの3か国間協定を前提としており、2国間協定であれば受け付けられないとの法的な議論もある。いずれにせよ中間選挙の結果次第ということであろう。

 トランプは、カナダに対しては、25%の関税を賦課するとの圧力をかけ、議会に対しては、新協定を承認しないのであればNAFTAを廃棄するとして、新協定か無協定の混乱状態かの選択を迫るであろう。このようなトランプの手法は、貿易に関するグローバルな秩序の崩壊にもつながりかねない。カナダが参加して「新NAFTA」が出来たとしても、必ずしも自由貿易への復帰ということにはならない。むしろ、北米経済ブロックという新たな保護主義を懸念する必要が出てくるかもしれない。米・メキシコ合意を受けて、ピーター・ナヴァロ国家通商会議委員長は「米国とメキシコに、自動車産業のサプライチェーンを取り戻し、米国とメキシコを世界における製造業の雄にする」と言っているのは、その兆候のように思われる。

  
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