オトナの教養 週末の一冊

2018年9月14日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

 11年前、熊本市の慈恵病院に設置された「こうのとりのゆりかご」、いわゆる「赤ちゃんポスト」は大変な議論を巻き起こした。赤ちゃんポストは、中絶や育児放棄、児童遺棄から子どもたちを守るため、罪に問われることなく赤ちゃんを「棄てる」ことができる施設だ。現在も設置されている赤ちゃんポストは、この10年間で何が変わり、変わらなかったのか。設置当初から継続的に取材を続け、『なぜ、わが子を棄てるのか  「赤ちゃんポスト」10年の真実』(NHK出版新書)の著者の一人である元NHK横浜放送局放送部記者の山室桃氏に話を聞いた。

(BravissimoS/iStock/Getty Images Plus)

――2007年に熊本県の慈恵病院に赤ちゃんポストが設置され、大きな議論が巻き起こりました。しかしながら、現在もその存在に注目している人というのは正直少ないと思います。

山室:NHKへ入局した最初の赴任地が熊本で、ちょうどその年に赤ちゃんポストが設置されました。それ以来、異動になっても取材を続け、設置された5月の節目には、毎年ニュースや特集番組で取り上げていますが、視聴者の方からは「そんなのあったね」「本当に預けている人がいるの?」という反応もあり、年々、世の中から忘れ去られているのを感じます。

 実際に預けられた赤ちゃんの数にもそれは表れていて、一番多い年には、1年間に20人を超えましたが、それ以降は年間10人前後と減少傾向にあります。報道で伝える機会も減ったので、存在を知らない人も増えたのではないでしょうか。

 私自身は、賛成、反対、どちらの立場でもありませんし、推奨しているわけでもありませんが、この11年で137人の赤ちゃんが預けられ、命が救われたのは事実です。

 慈恵病院はカトリックの宣教師が創設した民間病院で、キリスト教の理念に基づき、全国でただ1箇所、赤ちゃんポストを言うなれば「勝手に」設置しているわけです。これに対し、国が積極的に関与しない立場を貫いているのには、実際にこれだけの命が救われていることを考えると無責任に思えてなりません。

 他にも虐待や妊娠、男性の無責任さ、養子縁組制度など、実に社会のさまざまな問題を象徴しているのが、赤ちゃんポストという存在です。

――預けられる赤ちゃんの数は減ったということですが、10年間の取材を通して変わったこと、変わらなかったことは?

山室:まず、変わっていないこととして「匿名性」があげられます。赤ちゃんポストが設置された当初から、匿名で預けることに関して賛否両論ありましたが、現在もそれは変わっていません。病院側は、「誰にも出産したことを知られたくなくて、わざわざ熊本まで預けに来るのに、実名にしたら来なくなって救える命が救えなくなる」と主張しています。

 一方、預けられた赤ちゃんが成長した時に、赤ちゃんポストに預けられていたことや、養子縁組を結んだ育ての親が生みの親ではないことを知る時が必ず来ます。熊本市の検証部会は、その時にどう子どもたちに伝えるのかが問題だと指摘しています。ですから、預ける際には、匿名でも構わないが、できるだけ生みの親を辿れるような仕組みをつくるべきだと同部会は提言しています。

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