オトナの教養 週末の一冊

2018年9月14日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

山室:赤ちゃんポストの扉は二重構造になっていて、外側の扉を開けると両親宛の一通の手紙があり、それを受け取らないと内側の保育器が設置されている扉が開かない構造になっています。検証部会の指摘を受け、病院側は手紙に「いつでも相談に応じるので連絡してほしい」「赤ちゃんを預け入れたあと、気持ちが変わったら連絡してほしい」などその文面に赤ちゃんポストに預けるという選択だけでなく、里親制度や養子縁組という制度もあることとを記すといった工夫もしています。

 取材を通して感じるのは、赤ちゃんの生命は救われていますが、誰にも相談できず、匿名で預けざるを得なかった親たちにまで支援の手が届いていないということです。預けた理由は身勝手なものだったかもしれない。でも、子供を手放す以外にほかの方法が本当になかったのか、とその後も葛藤し続けると思うのです。そうした親たちが赤ちゃんポストに駆け込む前に、悩みを打ち明け、一緒になって解決方法を探ることができるセーフティネットが日本には欠けていると思います。

――赤ちゃんポストに生後間もない子どもを預けざるを得なかった人たちの事情は、この10年で変化したのでしょうか?

山室:子供を預けた事情は一貫して変わっていません。たとえば、不倫や若年妊娠、貧困、出産した途端に男性が逃げてしまい育てられなくなったなどです。つまり、出産しても経済的に子どもを育てられないし、不倫や若年妊娠に関しては、妊娠していること自体をまわりに知られたくないといった事情があります。これは、熊本市が赤ちゃんポストに預けられ、身元が判明したケースについて検証し明るみになりました。

 ただ、なかには親の保身のために預けたとみられる実に身勝手なケースも少なくありません。たとえば、取材の中で明らかになったのは、教師同士の不倫の末、職員会議で赤ちゃんポストに預ければいいんじゃないかと薦められたケース。現役の医師や社会福祉士が預けたケースなどです。このほか、「留学したいから」「仕事に復帰したいが保育所が見つからない」といった理由の預け入れもありました。検証部会は、赤ちゃんポストの存在が、罪に問われず出産そのものをなかったことにしたい、という身勝手な親たちの行動を助長しているおそれもあると指摘しています。

 前者の貧困や若年妊娠などに関しては、妊娠や子育ての悩みに対応する支援の情報が本当に必要な人たちに届いていないのが浮き彫りになっているのではないでしょうか。背景には、そうした人たちのなかには、税金を収めていないために、自治体へ相談に行ったり、生活保護を受給するのを躊躇したり、そもそも支援の情報へアクセスできないことも考えられます。そうした人たちにとって、赤ちゃんポストは“最後の砦”になっているとも言えます。一方で10年経ってもそうした境遇の彼女たちを社会が救えていないのが現実です。

――税金を収めることが出来ないくらい困窮しているということでもあると思うのですが、そういった人たちは、公的な支援を受けていないのでしょうか?

山室:そもそも妊娠時から、身の回りにいる人にさえ知られたくない事情がある。公的機関である児童相談所(以下、児相)に名前を知られたくないのは尚更で、相談しません。それどころか、産婦人科にも行かず、妊婦健診すら受けず、まわりにバレないようにこっそりと自宅でひとりで出産したケースも少なくありません。取材中にもそうした女性たちに話を聞きました。特に若年妊娠では、親や学校に気づかれないよう、妊娠中にお腹が大きくなってもダボっとした服を着て、「最近太ってしまった」と周囲にうそをつく。出産したことさえも親がまったく気づかなかったというケースも聞きました。

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