中東を読み解く

2018年9月18日

»著者プロフィール

危機感深めるトルコ

 同県の住民は他の地域からの避難民も含め約300万人。国連によると、約160万人がすでに食料不足にあえいでいる。政府軍が侵攻してHTSなどと全面戦争になれば、100万人近い住民が新たに難民化する恐れが強い。同県と国境を接するトルコはこうした難民の大半が国境に押し掛けてくると懸念している。

 トルコは同県に反政府派支援の部隊を派遣しているため、戦闘に巻き込まれる恐れがある上、難民が押し寄せた場合、国境を開放するか、見殺しにするかの深刻な決断を迫られることになる。トルコはすでに、200万人を超える難民を抱えており、これ以上の難民を収容することは国家的な危機に直面しかねず、そうした事態を避けたいと苦慮している。

 このため、トルコはHTSに武装解除させるべく秘密協議を続けてきたが、指導者のムハマド・ジュラニが解除を拒否し、協議が決裂した。エルドアン大統領は7日にテヘランで開催されたイランのロウハニ大統領、ロシアのプーチン大統領との首脳会議で、イドリブ県への侵攻を思いとどまるよう働き掛けたが、うまくいかなかった。

 イドリブ県への侵攻については、トランプ大統領も「向こう見ずな攻撃はするな」と警告、国務省はシリア政府軍が化学兵器を使えば、米国が報復する可能性を示唆した。これに対し、シリアの国営放送は緊急救助隊の「ホワイトヘルメット」が化学兵器攻撃の準備をしていると非難するなど、早くも謀略の臭いが充満している。

IS掃討に2、3カ月

 もう1つの戦争、ISへの総攻撃は9月11日に始まった。舞台はシリア東部のイラク国境に近いIS最後の拠点ハジンだ。ハジンは周辺の村落を含め、住民6万人ほどの小さな町だが、IS掃討作戦を進める米支援のクルド人主体のシリア民主軍(SDF)が総攻撃を開始した。ISは周辺に地雷網を敷き、町中にトンネルを張り巡らして徹底抗戦の構え。

 これまでの戦いと違うのは、立てこもるIS戦闘員にとって「戦略的な撤退」という選択肢がもはや取り得ないことだ。町を死守するIS戦闘員の数は約1000人と考えられているが、撤退するところのない、文字通り玉砕覚悟の最期の戦闘になる。指導者のアブバクル・バグダディが潜伏している可能性もある。米軍のスポークスマンは作戦終了までに「2、3カ月かかる」としている。

 だが、このハジンの戦いでISがすべて壊滅すると考えるのは早計だ。すでに海外も含め各地に分散したIS戦闘員は「2万5000人」(戦略国際研究所報告)もいる。専門家は「ISは“国家”からテロ組織に先祖返りしただけ」と指摘し、脅威が依然存在していることを強調している。

関連記事

新着記事

»もっと見る