世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年10月1日

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 今回の国連の報告やミャンマーの裁判所によるロイター通信の記者への判決が西側の世論の怒りと焦燥を改めて高めたのは当然である。しかし、犯罪は看過すべきではないが、中国とロシアの庇護があるので安保理が問題を国際刑事裁判所に付託する事態は想定し得べくもない。アウン・サン・スー・チーに対する国際的な失望感は大きい。それも当然ではある。しかし、彼女なくしては問題の解決に向けた手掛かりを失うこともまた事実ではないかと思われる。この際、ロイター通信の二人の記者の釈放を働き掛けるしかないであろう。この一件はミャンマーにとって本質的な問題ではないはずである。この期に及んで何の利益にもならず、いたずらに欧米諸国との軋轢を増幅するに過ぎない。うまく処理できればスー・チーの手柄となり得る。

 しかしながら、こうしたことと、バングラデシュでロヒンギャ難民が置かれた苛烈な状況の改善とは、およそ別の問題である。昨年8月の事件以来、72万5000人が国境を越えて避難し(他に控え目に見て1万人が殺害されたという)、それ以前から滞在の難民と合わせて100万人が密集するという。彼等には将来への希望がなければならないが、ミャンマーへの帰還、第三国での定住、バングラデシュでの定住の3つの選択肢のいずれの目途も立たない。そのうち、危険を犯して海路マレーシアへ大量脱出する事態が起こるかも知れない。ロヒンギャに同情するムスリムの過激派によるテロリスト徴発の格好の場所と化す危険がないともいえない。

 ミャンマーを見る視角としては、ミャンマーが中国の勢力圏に再び取り込まれるのではないかという、地政学的側面も見逃せない。最近のロヒンギャへの対応において、中国は一貫してミャンマー政府を支持してきた。中国は、「一帯一路」の一環としてミャンマーを重視している。ミャンマーとの関係強化により、中国はインド洋に進出しやすくなる。ロヒンギャ問題は、事態を中国に有利に動かしていると思われる。西側の対ミャンマー投資が冷え込み、中国マネーだけが頼りとなっている。唯一の光明は、ミャンマー政府が「対中債務の罠」を警戒しているらしいことである。ミャンマー政府は、ベンガル湾における中国の支援による港湾建設プロジェクトの大幅縮小を目指しているとのことである。しかし、中国を警戒する側にとり、見通しが明るくないことは間違いない。

  
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