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2018年9月26日

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ドナルド・トランプ米大統領は25日、米ニューヨークで開かれている国連総会で演説し、イランが中東全域で「混沌(こんとん)と死と破壊」の種をまいていると非難し、グローバリズムを否定した。自分の政権が米国史上「ほとんどどの政権より」も多くの業績を達成したと自慢すると、会場からは笑い声が聞こえ、大統領は「そういう反応が返ってくるとは思ってなかった」と笑い返した。一方で、エマニュエル・マクロン仏大統領はアントニオ・グテーレス国連事務総長は、多国間主義の重要性を熱弁した。

イランを非難 北朝鮮に感謝

トランプ大統領はイラン政府について、「近隣諸国や国境や国家主権を尊重しない。代わりに、イランの指導者は国の資源を奪って私服を肥やし、中東全域とそのはるか遠方にまで混乱を広めている」と非難。その上で、イランとの核合意から離脱したのは良い判断だったと述べた。

さらに、北朝鮮との関係改善や対中強硬姿勢の正当性を主張し、6月にシンガポールで行った米朝首脳会談はわずか数カ月前まで想像すらできなかった事態の改善をもたらしたと述べた。北朝鮮のミサイルやロケットが四方八方に飛んでいる状態は止まり、北朝鮮の核実験も停止したとトランプ氏は強調し、「今日ここにいる多くの国々の支援を得て、我々は北朝鮮と対話することで、紛争の亡霊を追い出し、平和に向けた新しく大胆な取り組みを引き込んだ」と述べた。

さらに、北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に対して、「まだやるべきことはたくさんあるが、金委員長の勇気と、これまでの対応に感謝したい」と謝意を示した。

その一方で、北朝鮮の「非核化が実現する」まで制裁は継続すると表明した。

トランプ氏は演説の前日には、金委員長との2度目の会談が「そう遠くない将来」に開催されると明らかにしている。

グローバリズムを否定

トランプ大統領は自分の政権のこれまでの業績を自慢し、米国は以前より強く、豊かで、安全な国になっていると強調。米国は世界において独自の道を突き進む権利があると繰り返した。

さらに、グローバリズムの考え方を拒絶し、愛国心を称賛した。「この部屋にいる全ての国が、自分の風習や信条や伝統を追求する権利を、私は尊重する」と述べ、「米国は皆さんにどのように暮らして働いて信仰すべきだなどと言ったりしない。ただその代わり、我々の主権を尊重するようお願いするだけだ」と呼びかけた。

国際貿易については、これ以上の「悪用」を容認しないと警告。中国による大々的な製品のダンピング(不当廉売)と知的財産の盗難が、米国の巨額貿易赤字につながったと非難した。

石油輸出国機構(OPEC)に対しては、加盟国の多くが米国の軍事支援に依存しているにも関わらず、世界を相手に「ぼろもうけ」していると責めた。

また、移民問題については、不法移民が各地の犯罪組織の資金源となり、地域住民の生活を脅かしていると指摘。人の移動は国際組織が管理すべきではないと批判した。その上で、住民の流出が続く国については、自国民により良い未来を提供できるよう、支援すべきだとも述べた。

トランプ氏はさらに、インド政府が数百万人もの国民を貧困から「中産階級」へと引き上げたと評価。サウジアラビアの「大胆な、新しい」改革や、イスラエルの「旺盛な民主主義」を称賛した。ポーランドについても、自国の主権を守るために戦った国だと称えた。

イランの反応は

米国大統領の国連総会演説で名指しで非難されたイランのハッサン・ロウハニ大統領は、トランプ政権の敵対姿勢を批判すると共に、核合意について交渉に復帰するよう呼びかけた。

ロウハニ大統領はニューヨークで、米国は脅迫と「不当な制裁」をやめて対話に戻るべきだと述べ、強制的な交渉再開はあり得ないと付け加えた。

「国際関係に対する米国の理解は、強権的なものだ。力こそが正義だと考えている。合法的な正当な権威ではなく、力についての米国の認識が、その高圧的なごり押しぶりに反映されている」とロウハニ氏は述べた。

トランプ政権は今年5月、包括的共同作業計画(JCPOA)とも呼ばれるイラン核合意から、一方的に離脱した。イラン核合意はバラク・オバマ前大統領の政権が交渉したもので、国際社会の制裁解除と引き換えにイランが核開発を制限するという内容だった。

合意離脱に伴い8月には、イランに対する米国独自の経済制裁の一部を再発動させ、イランによる米紙幣購入や貴金属・鉄鋼、自動車部品などの取引を制限した。11月5日には、イランにとってさらに影響の大きい原油やエネルギー取引、海運部門、中銀などが対象になる。

トランプ政権のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はニューヨークで記者会見し、米国への「対決姿勢」は代償を伴うとイラン政府に警告した。

「我々や同盟国や協力国に逆らったら、我々の国民を傷つけたら、うそとずるを続け、だまし続けるなら、そうだ間違いなく、代償はとてつもないものになる」とボルトン氏は述べた。

イランは米政府が「心理戦」を展開していると非難し、テロ行為には一切関わっていないと強調している。また、国内の原子力開発はあくまでも平和利用のためのものだと説明している。

イランとの核合意に参加する英国、中国、フランス、ドイツ、ロシアはいずれも合意の継続を掲げており、イランと商取引のある自国企業が取引を継続し米国の制裁を回避できるよう、新しい決済制度を構築する方針を示している。

マクロン仏大統領は多国間主義を

トランプ氏とは対照的に、マクロン仏大統領は多国間相互主義の意義を強力に熱弁した。

トランプ氏の後に登壇したマクロン氏は、「主権の理念を掲げる続けることは決してやめない」ものの、国家主権を武器として使ってはならないと釘を刺した。

「我々の価値の普遍性を攻撃するために国家主権を利用する、国家主義者の手に、主権の理念をゆだねたりしない」とマクロン氏は述べた。

さらに仏大統領は対話の重要性を強調し、「最強な者の支配を私は信じない(中略)私は、新しい世界的バランス、新しい国際モデルの実現に向けて我々を突き動かす、第3の道を信じる」、「私たちは強力な多国間主義なくして、21世紀において勝つことはできない」と強調した。

<解説> 多国間主義をまたしても攻撃――ジェイムズ・ロビンスBBC外交担当編集委員

ドナルド・トランプ氏が世界的な一番の敵を、北朝鮮からイランに切り替えたというのが、真っ先に出てくる見出しかもしれない。しかし、米大統領の国連総会演説には、それよりも重要な内容が詰まっていた。

トランプ氏は昨年の国連総会でも国連とその多国間主義を攻撃した。国連の多国間主義とは、共通の目標を追求するため複数の国々をまとめて協力させようとするものだ。

大統領の舌鋒は今年、昨年をはるかに上回る激しさだった。

トランプ氏はグローバリズム全般を全面的に糾弾し、なかでも国際刑事裁判所をことさらに非難することで、多国間主義を攻撃した。さらにそれに輪をかけて、個々の国の主権を擁護し、国を思う心や愛国心を称えることで、多国間主義を否定した。

トランプ氏にとっては、それが唯一の自由への道で、米国の人たちの権利を確保する唯一の方法なのだ。

これに対してグテーレス国連事務総長は演説で、明確なアンチテーゼを提供した。事務総長は慎重に、トランプ大統領を名指しこそしなかったものの、言わんとすることは明白だった。世界が20世紀史の、特に1930年代の教訓を無視して再び大衆主義と孤立主義の道を突き進み、またしても世界的な紛争に転落していく危険について、グテーレス氏は警告した。

今日の演説が終わってみれば、多国間主義の批判派と擁護派を分ける深い溝は、かつてないほどくっきりと刻まれている。その分断は、正視しづらいほど歴然としている。

(英語記事 Trump at UN: Iran 'sowing chaos, death, destruction')

提供元:https://www.bbc.com/japanese/45637431

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