2024年4月25日(木)

児童書で読み解く習近平の頭の中

2018年9月28日

ポスト習近平となる「紅小兵世代」の顔ぶれ

 ここで話は一気に現在に。

 今夏、例年のように北載河に集った共産党幹部の間では、2020年の第20回共産党全国代表大会で決定される次代の幹部人事が話し合われたようだ。現在の一強体制が継続し、習近平総書記の続投となるというのが現時点における大方の予想だが、ここで注目したいのが次世代幹部の呼び声が高い若手の生年である。

 たとえば19回大会で中央候補委員に選ばれた江西省党委員会常務委員の施小琳(1969年)。浙江省党委員会常務委員で杭州市党委員会書記の周江勇(1967年)。上海市党委員会常務委員・宣伝部長の周慧琳(1962年)。陝西省党委員会常務委員で省規律委員会書記・省観察委員会主任代理に加え第19回党大会で中央規律委員に選ばれた王興寧(1964年)。

 加えるに5月に行われた省級人事をみると、江西省党委員会副書記・贛州市党委員会書記の李炳軍(1963年)。浙江省党委員会常務委員で組織部長・規律委員会書記・監察委員会主席代理の任振鶴(1964年)。山東省党委員会常務委員で済南市党委員会書記・同党校校長の王忠林(1962年)。浙江省党委員会副書記の鄭柵潔(1961年)。広西チワン族自治区党委員会常務委員・組織部長の王可(1962年)――その大部分は紅小兵世代である。

 ということは、習近平主席ら紅衛兵世代の次に中国を担うのは、1960年代に生まれた紅小兵世代ということになるはずだ。

 彼らの頭の中に、幼い紅小兵当時に叩き込まれた毛沢東思想は生きているのか。今後の彼らの振る舞い――彼らが中国の将来を左右する――を見据えるなら、紅小兵に対する文革教育もまた改めて振り返ってみる必要があるのではなかろうか。

呆れるほどに早熟な共産主義者

 紅小兵世代はひとまず措き、『金訓華之歌』(仇学宝 上海人民出版社1970年)を一例に1970年における紅衛兵世代の理想像を考えてみたい。

「鮮やかな雲間に立ち、紅い太陽をにこやかに迎えるのは誰。銀色に耀く鋤を肩に、神州(そこく)を流れる川という川に喜びの視線を送る。嗚呼、紅旗は山々の頂に翩翻として並び立つ。湧き上がる歌声よ、雲を衝き抜け天にも届け・・・『生きては革命に身を焦がし、一生を毛主席に捧げよう』」で始まる200頁にも及ぶ大長編叙事詩の『金訓華之歌』は、「継続革命の大道」に命を捧げた金訓華の「火焔にも似た二十年の青春」を“感動的”に歌いあげる。

「労働者世代の頼りになる立派な後継者、新時代の若き猛将」たる金訓華は「時まさに四九年」、「新中国と同じ年」の「春浅き二月」に生まれた。産褥期、母親は「労働者の一日も早い解放を、人民の兵士たちの一日も早い捷報を、大恩人の毛主席にお願いした」。だが、産褥期も終らないうちに働かねばならない。仕方なく母親は乳飲み子の金訓華を抱いて工場に働きにでるのだが、親方に見つかったらクビになってしまう。母親の窮状を知ってか金訓華は泣かないし、むずがらない。大きなメダマを見開いて静かにしている姿は、「まるで親方が凶暴で、資本家が心の真っ黒な極悪人だということを知っているようだ」。生まれたばかりなのに既に資本家の悪辣さを熟知していたというのだから、やや大げさに表現するなら、呆れるほどに早熟な共産主義者だったことになる。

 やがて「五星紅旗が空高く揚がり、毛主席が天安門の上に立つ。大きな手を一振りすれば、たちまち大地は耀きわたる」。革命が成就し、中華人民共和国が建国されたのだ。

 幼時から青年へと成長するに従って毛沢東の著作の学習に熱が入る。『毛沢東選集』を手にするため、「凍てつく寒風、吹きつける雪」にもかかわらず、金訓華は書店の前に幾晩となく整然と並んだ。「心に焦がれる毛主席の著作だ。骨を刺す寒風も、身に積もる雪も恐れない。寒い、その場で地面を踏んで耐える。眠い、掴んだ雪で顔を拭う。夜が明ければ、毛主席の著作が手に。喜びの爆発だ。学校への道すがら、偉大な著作を手にかざす」。それからというもの、寝ても覚めても著作の学習である。

 やがて文革。彼は紅衛兵の先頭に立ち、「劉少奇を頭とするブルジョワ階級司令部」に敢然と戦いを挑む。次いで毛沢東の「偉大な戦略部署」に立つべく辺境に向かい、「自らの二本の手を以って、社会主義の祖国のために、理想的な辺境建設を目指す」のであった。そんな日々にもかかわらず、彼は毛沢東の著作の学習を怠らない。「光栄で、偉大で、正確な党への入党が叶う日を熱く思い描いて」というから、これが感動せずにいられようか。

 豪雨が続いたある日、スピーカーから「ソ連修正社会帝国主義が再び我が国境を侵そうと策動をはじめた」との情報が伝わった時、猛り狂った川の流れは堤防を越え、人々に襲い掛かってきた。すると金訓華は「同志諸君、洪水を社会帝国主義に見立てて戦おう」と敢然と洪水に挑んだものの、待っていたのは壮絶なる死であった。

 かくて「革命の旗は高く掲げられ、継続革命は永遠に止まることなし」。

 まさに「継続革命は永遠に止まることな」く、毛沢東思想教育は延々と続くのである。

 はたして現在の共産党政権幹部、あるいは次代の中国の舵を取るであろうエリート党員の脳裏に紅衛兵やら紅小兵として暴れ回った文革当時の雄姿が蘇り、必死に学んだ毛沢東思想がフラッシュバックすることはないのか。

  
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