Washington Files

2018年10月1日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「#MeToo」の不気味な動き

 今回、共和党陣営がとくに恐れるのは、92年選挙で選出された5人の女性がいずれも民主党候補だったことが示す通り、近づく11月中間選挙では上院のみならず下院選挙でも女性パワーが民主党候補への強力な後押しになることが十分予想されるからだ。中でも注目を集めているのが「#MeToo」の不気味な動きだ。

 すでにキャバノー最高裁判事をめぐるセックス・スキャンダルに関しては、大学教授の訴えに続いて、同氏と名門エール大学時代に同期だったという別の女性が「私も・・」と名乗り出たほか、その後も次々に同様の被害にあったという女性たちの存在が浮かび上がってきている。

 司法委員会審議が行われた去る27日前後には、連邦議事堂内ホールや議員会館内外でエール大学現役学生200人を含む女性たち数千人が連日「キャバノー承認反対!」などと書いたプラカードを手に抗議集会や座り込みの実力行使に出るなどして、数十人が逮捕される騒ぎとなった。91年当時と比較して、女性たちの政治行動が、その規模と関心度において格段にエスカレートしてきていることを示している。

 キャバノー氏に関する司法委員会審議では結局、翌28日、賛成11(いずれも共和党委員)、反対10(いずれも民主党委員)でいったんは指名支持の結論を出したものの、その直後、共和党委員2人、民主党委員1人から、前日証言台に立った大学教授以外の関係者についてもFBIによる調査完了まで承認を見合わせるべきだとする緊急動議が受け入れられたため、上院本会議での最終採決は10月第一週まで延期となった。この緊急動議は、「#MeeToo」運動に関わる女性数人がエレベーターに乗り込もうとした議員の前に立ちはだかり、自らの過去のレイプ体験を告白し、キャバノー氏に対する徹底調査を涙を流しながら熱烈に直訴したのがきっかけだった。

 21世紀に入り、有権者の半数を占める女性の存在がにわかにクローズアップされ始めた中で とくに注目されるのは、国政選挙における女性有権者層の投票動向の変化だ。

 有力調査機関のひとつFiveThirtyEightの分析結果によると、女性たちの「民主党傾斜」は年々めだってきており、2014年の場合、民主党支持者は男性有権者層と比較して4ポイント上回っていたのが、2016年調査ではその差は10ポイントに、さらに今年9月には平均15ポイントにまで拡大した。

 また、ここ数年の傾向として女性投票総数も男性より「数百万票」も多い結果となっているという。

 女性の政治参加が高まりを見せはじめているだけでなく、民主党支持者が増えつつあることは、共和党にとってはまさに“ダブル・パンチ”にほかならない。その触媒のひとつになっているのが、今回盛り上がりを見せたセクハラ被害者や友人、知人の女性たちの抗議運動だ。

 ちなみに、アメリカで昨年から今年にかけて「#MeToo」などのネットワークを通じた訴えがきっかけで解任または、辞任せざるを得なくなった著名人は数多い。その中には、NBCテレビ元重役マット・ジマーマン、アラバマ州元知事ロイ・ムーア、CBS大物キャスターだったチャーリー・ローズ、著名な映画監督ロマン・ポランスキー、黒人コメディアンのビル・コスビー、パトリック・ミーハン下院議員(共和)、レス・ムーンベスCBSテレビ最高経営責任者、ニューヨーク・メトロポリタン・オペラ首席常任指揮者ジェームズ・レビーン各氏など枚挙にいとまがないくらいだ。

 しかも、女性たちのこうしたセクハラ告発件数の急増は、トランプ氏が2016年大統領選に立候補した際、自らの過去の女性スキャンダルが次々に浮上し、そのたびに全米で大きな話題となったことに触発された面も否定できない。

 さらに、今年の中間選挙の最大の話題になっているのが、連邦議会、州知事への女性立候補者数の記録的な増加ぶりだ。

 CNBCテレビが今年8月段階で集計したところによると、連邦下院選挙への女性立候補者は民主、共和両党合わせ185人、州知事選が11人に達し、いずれも史上最多を記録した。このうち下院選挙での内訳は民主党指名候補143人に対し、共和党は42人で民主党候補は3倍以上と圧倒的に多く、共和党にとっては深刻な脅威となりつつある。

 キャバノー氏の最高裁判事の去就については30日現在、上院本会議最終採決に先立って始まったFBIによる関係者事情聴取の結果次第となっているが、ワシントンの政治評論家たちの間では、今や結論如何にかかわりなく、女性たちの政治活動は今後さらに活発化し、中間選挙の趨勢に多大な影響を及ぼすことは必至、との見方が支配的だ。

  
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