足立倫行のプレミアムエッセイ

2018年10月6日

»著者プロフィール
閉じる

足立倫行 (あだち・のりゆき)

ノンフィクションライター

早大政経学部中退後、週刊誌記者などを経てノンフィクション作家に。近著に『血脈の日本古代史』(ベスト新書)『倭人伝、古事記の正体』(朝日新書)。

ニッチを奪い取る戦略

 他の生物(特に鳥や昆虫)に食べられっ放しで移動できない植物、その中でも競争に弱い雑草にも、ニッチを奪い取る戦略がある。

 今年の夏の高温・乾燥を追い風に、高性能の光合成を利用していっきに生息域を拡大した我が家のエノコログサがまさにそうだ。

 マツヨイグサやカラスウリは、昼間のチョウではなく夜間飛び回るガに花粉を運んでもらうため、夜に花を咲かせる戦略をとる。

 草笛遊びに使うスズメノテッポウ(ピーピー草)は、田んぼに生える時は大きい種子で種子数が少なく、畑に生える時は種子が小さく種子数が多いタイプへと変化する。

 なぜなら、田んぼは土が掘り返される時期が決まっているので、草としてはそれまでに種子を作ればいい。ならば、草同士の競争に勝つように種子は大きい方が有利。これに対し畑では、耕作時期も作物もバラバラ。この場合、小さくてもたくさんの種子を作る方が芽吹く可能性が増え、より賢明な戦略と言える。

 むろん、うちの庭では小さな種子である。

 そしてオオバコは、葉の中に硬い筋、茎の外に硬い組織を持ち、踏まれ強い構造を持っている。

 加えてオオバコは、雨や水で濡れると種子がゼリー状の粘着液を出すから、人間の靴や動物の脚に付着する。踏まれる場所に生える「逆境」を利用し、上手に生き残るのだ。

 驚くのはカラスノエンドウ。葉の付け根から蜜を出してアリを呼び、昆虫界最強のアリを味方につけ害虫から身を守るのである。

 見渡しても、ただ雑多な草々が繁茂しているだけの庭のように見えるが、植物学の本をひもとくと、生物進化の最先端の場所と呼べる。「雑草」たちの激烈にして精緻かつ多彩な生存競争が、日夜繰り広げられているのだ。

 それにしても、雑草の名称(別名も)は、どうしてかくも粗雑なのだろうか?

 ヘビイチゴ、ハキダメギク、ナズナ(ペンペン草)、ハルジョオン(ビンボウ草)、ブタナ、ネズミムギ、ヘクソカズラ、ママコノシリヌグイ……。

 ま、そうした植物の多くが寄り集まってしまう我が家も我が家かもしれないが……。

 ただし、そんな我が家にも由緒正しい秋の花はある。

 真っ赤なヒガンバナ(死人草)は終わったけれど、白いハギが庭の壁際に咲いているのだ。

 ハギは漢字で「草冠に秋と書く」ように、日本の秋を代表する花である。
 
〈芽木(はぎ)の花尾花瞿麦(なでしこ)の花女郎花(おみなへし)または藤袴(ふじばかま)朝貌(あさがお)の花〉 山上憶良

 (※尾花はススキ、朝貌はキキョウ)

 万葉歌人の憶良が『万葉集』でこのように詠んで以来、ハギは秋の七草の筆頭とされてきた。
 奈良時代末期に成立した『万葉集』の中で一番多く登場する植物もハギで、計141首ある。

 次がウメ(120首)で、後年国花となるサクラはまだ42首しか詠まれず、キクにいたってはただの1首もない。

 以上のようなわけで、私は毎年この季節になると、雑草だらけの庭の(外見上の?)不人気を挽回したい気もあって、清楚な白い花をいっぱいつけたハギの枝数本を壁から道路側へと垂らす。
 「これが古来の“秋の花”!」と、道行く人に、幾分これ見よがしに…。
 
〈萩の風何か急(せ)かるゝ何ならむ〉 水原秋桜子

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る