この熱き人々

2018年10月25日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 パリの店で買って、日本の有松で作られていると知りはるばる訪ねてくれた人がいたことを、村瀬は本当にうれしそうに語る。そういえば最近の有松には、外国人の姿も多いという。近くの廃業した銭湯の建物ではこの日、絞り教室が開かれていて、参加した子供たちの声が響いていた。村瀬自身もドイツとイギリスの大学で教鞭をとり、若い学生たちに絞りの技術を教えていることもあって、インターンシップで有松に来た海外の学生も40人以上いるという。

 「今もスイスから来た人が働いているし、沖縄や新潟から来ている人もいます。有松もデュッセルドルフもファッションの中心地ではない。それでも技術のポテンシャルがあれば人をよぶ力になります」

 現代の世界の時と背景を感じて村瀬がデザインした作品は、長い時を内に秘めた有松で製品になり、新しい風となって再び世界に吹き出していく。

 黄色にグレーをかけたオリーブ色に、細いシャープな地色の黄色い線を染め抜いたセーターがある。「これが有松絞り?」と思う人と、「何これ! 素敵」と思う人がいる。

独自に考案した棒締め絞りで細いラインを染め抜いたニット

 「この方法は有松にはなかったので、板締め絞りを基に技法を考えました。板締め絞りは板を万力(まんりき)で止めて大きく地の色を抜くんですが、細い線では細い板を使うしかなく、万力で締めると板が折れてしまう。板ではなく棒にして、棒だと万力が使えないので結束バンドで締めることでやっと成功しました」

 風が吹き抜けることでこれまでにない新しい技術も生まれていく。止まっていた有松の時は確かに再び動き出しているようだ。   

むらせ ひろゆき◉1982年、愛知県生まれ。イギリス、ドイツで立体芸術と建築を学び、08年にドイツ・デュッセルドルフで有松絞りのオリジナルブランド「suzusan」を立ち上げる。絞りの技法を生かした服飾品やインテリア製品を世界23カ国で展開している。

阿部吉泰=写真

  
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◆「ひととき」2018年10月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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