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2018年10月9日

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マット・マクグラスBBC環境担当編集委員(韓国・仁川)

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8日、韓国の仁川で開いた会合で、早ければ2030年に1.5度の気温上昇が起きるとする特別報告書を発表した。会合に出席した科学者は、世界的な気温上昇による危険性が最も広範囲に及んでおり、これが最後の呼びかけだと話している。

気温上昇を摂氏1.5度に抑えることを目標とする印象的な報告書は、世界は同目標への軌道から完全に外れており、むしろ3度上昇に向かっていると主張している。

産業革命前の水準から1.5度の気温上昇に留めるという望ましい目標を維持するためには、「迅速で広範囲に及ぶ前例のない変化が、社会のあらゆる側面で」必要になると報告書は指摘した。

報告書は、変化には多大な費用がかかるだろうが、可能性はまだ残っているとした。

3年間の調査と、科学者と政府当局者が韓国で1週間にわたって開いた協議を経て、IPCCは地球の気温が1.5度上昇した場合の影響に関する特別報告書を発表した。

重要部分を33ページにまとめた政策立案者向けの概要には、研究で示された結果に忠実であろうとする気象学研究者と、経済や生活水準をより心配する政治家の代表の間で展開された難しい議論の証が示されている。

妥協は避けられなかったものの、いくつかの重要なメッセージは大きく、明確に示された。

IPCCの共同議長を務めるジム・スキー教授は、「第1に、気温上昇を摂氏1.5度に抑えることだ。上昇上限を2度にした場合と比べ、多くの利点が期待できる。かなり重要な点で気候変動の影響を大きく減らす」と述べた。

「第2に、もし気温上昇を1.5度に抑えようとするなら、前例のない性質の変化が求められるということだ。電力システム、土地管理の方法、交通機関による移動の方法、それぞれに変化が要求される」

1つの大きな成果


「科学者は大文字でこう書きたいかもしれない。『いま行動しろ、ばかども』と。ただ科学者がそれを言うには、事実と数字を一緒に述べる必要がある」と総会にオブザーバーとして出席した環境団体グリーンピースのカイシャ・コソネン氏は話した。「そして科学者はそれらを持っている」。

研究者はこれらの事実と数字を使い、人類が引き起こした危険な熱を帯びた世界の絵を描いた。

かつて人類は、今世紀中の気温上昇を2度以下に抑えられれば、我々が経験することになる変化は対処可能だと考えていた。

しかしもはやそうではなくなった。今回発表された新しい調査によると、気温が1.5度上昇すれば、人類が地球で暮らせなくなる大きな危険が生じる。この気温1.5度という「ガードレール」は、2030年までの12年で超過してしまう可能性がある。

上昇を1.5度以下に抑えられる可能性もあるが、それには、政府や個人による迅速で大規模な変化が求められる上、世界の国内総生産(GDP、生産された商品とサービスの総額)のうち約2.5%もの巨額を毎年、20年間投資する必要がある。

その上でさらに、機会、木々、植物に空気中から炭素を取り込んでもらい、地中深くに埋める必要がある。永遠にだ。

個人ができること

報告書は、4つの世界的なシステムに急速かつ大きな変化を起こさなければならないとしている。エネルギー、土地利用、都市、産業の4つだ。

しかし、個人が変わることなしに世界は目標を達成できないとも報告書は付け加えており、下記の内容を呼び掛けている――。

  • 肉、牛乳、チーズ、バターの購入を控え、地元で採れた旬のものを購入し、これらを無駄にしない
  • 電気自動車を運転する。ただし、短い距離は徒歩で行くか自転車を利用する
  • 飛行機の代わりに電車やバスを使う
  • 出張の代わりにビデオ会議を活用する
  • 洗濯物を乾かす際には、回転式衣類乾燥機でなく物干しを使う
  • 住宅を断熱処理する
  • 消費財すべてに低炭素を求める

ライフスタイルの変更は、大きな違いを作る可能性があると、IPCCのもう1人の共同議長デボラ・ロバーツ博士は語った。

「これは個人に対する、非常に力を与えるメッセージだ」と博士は述べた。「これは遠く離れた科学に関する話ではなく、私たちが生活し、仕事をする場所に関する話だ。そしてこれは、大きな変化に私たちがどう貢献できるかを教えてくれている。というのも、私たち全員が関わらなければいけないことだからだ」。

「自分は土地利用をコントロールする力など持っていないというかもしれない。しかし自分が食べるものを決める力は持っている。それが土地利用を決定するのだ」

「都市での移動手段も選べる。もし公共交通機関を使えないのであれば、公共交通機関という選択肢を与えてくれる政治家に投票すべきだ」

2018年は記録的な猛暑が続いている。今年5月から7月にかけて、観測史に残る気温を記録した都市を地図で示した。「観測史上、同日の同地点で最も高い気温を記録した」場所がオレンジ、「観測史上、同月の同地点で最も高い気温を記録した」場所が赤、「観測史上、同地点の最高気温を記録した」場所が茶色の点で示されている。

出典:ロバート・A・ロード氏(米バークレー地球研究所)地図は一情報サービス「Carto」で作成


1.5度に向けた5つの段階

  1. 2030年までに、全世界での二酸化炭素(CO2)の総排出量は、2010年の水準から45%削減する必要がある
  2. 2050年までに、世界の総電力の最大85%を再生可能エネルギーで供給できると推計されている
  3. 石炭使用量はゼロ地殻までに削減が期待されている
  4. 発電燃料の調達に必要となる土地面積は、最大で700万平方キロになる計算。これはオーストラリアの面積よりやや小さい規模
  5. 2050年までに世界の温暖化ガス総排出量を正味ゼロに

経費はどのくらいかかるか

安くはない。気温上昇を摂氏1.5度に抑えるには、2016〜2035年の間に「電力システムに必要な年間平均投資額が約2兆4000億ドル(約273兆円)」と報告書は推計している。

専門家は、この数字を文脈の中でとらえる必要があると考えている。

IPCCでかつて英国の交渉担当を務め、現在は世界自然保護基金(WWF)に所属するスティーブン・コーネリウス博士は「経費と利点をてんびんにかけなければいけない」と指摘する。博士は、排出削減は短期的には金銭コストになるが、CO2の除去を今世紀の後半に進める場合にかかる金額よりは安く済むとしている。

「報告書は、気温上昇を1.5度に抑える方が、目標を2度にする経済成長が大きいため利点があるとも述べている。さらに、気温上昇を1.5度に抑えられれば、壊滅的な影響によるリスクは2度の気温上昇よりも低くなる」

20世紀の平均気温と、過去10年で最も暖かかった年、最も寒かった年を比較したグラフ。2018年(茶色太字)は史上4番目に暖かい年となっている

行動しないと起きること

気温上昇を1.5度以下に抑えられなかった場合、世界には大きく危険な変化がいくつか起こると、研究者らは主張する。

サンゴ礁には別れを告げなければならなくなる。報告書は、2度の気温上昇で基本的にサンゴ礁は全滅するとしている。

気温上昇が2度になると、世界の海面は約10センチ上昇する。たいしたことがないように響くかもしれないが、気温上昇を1.5度に抑えると、洪水のリスクを背負う人が1000万人減ることになる。

また、海水の水温や酸性度、米、とうもろこし、小麦といった農作物を育てる能力にも、大きな影響が生じる。

「1度の上昇でもすでに危険区域にいる」とグリーンピースのコソネン氏は述べた。「南北両極の氷は加速的な速さで溶けており、何百年も生えていた古代からの木々も突然枯れてきている。夏は今年私たちが経験したとおり、基本的に世界全体が炎に包まれてしまった」。

北極海の氷、減少の推移

全ては小さな島国を救うためなのか

地球の気温上昇を1.5度に抑えるという考え方は、気温が2度上がると洪水で水浸しになると恐れる小さな島国や海抜の低い国にとって、心理的に非常に重要だ。

しかし報告書が作成されていた3年の間に、気温上昇を1.5度近くで抑えることの利点が太平洋に浮かぶ島国のためだけではないと示す、さらなる科学的根拠が発表されてきている。

IPCCによる報告書を執筆した1人、モルジブ出身のアムジャド・アブドラ博士は、「小さな島国を救えば、世界を救うことになる」と述べた。「報告書が明確に主張しているように、気温上昇に影響を受けない人などいないのだ。道徳心の話であり、人間性の話だ」。

残された時間は

長くはない。しかし問題は現在、政治的指導者たちの手中に委ねられている。報告書は、もはや難しい決断をこれ以上先延ばしにはできないと述べている。もし世界の国々がすぐに行動を始めないと、空気から炭素を排除するための技術に、さらに多く頼らざるを得なくなるだろう。技術は確証されておらず、高くつく、不確かな道だ。

「本当にすぐに手を打つ必要がある。2030年に向けたパリ協定で決めた約束を各政府が果たすだけでは十分ではないと、報告書ははっきりと書いている。1.5度の地球気温上昇を考えるのは、非常に難しくなっていく」とジム・スキー教授は述べた。

「報告書を読み、目標をより高く持ってすぐに動き始めれば、1.5度は手が届く範囲にある。私たちが直面する選択肢の性質はこういうことだ」

今回の報告書を歓迎する活動家や環境保護主義者たちは、議論する時間は残されていないと話す。

「今がまさに決断すべき時だ」とコソネン氏は述べた。「クリーン・エネルギーや持続可能な生活スタイルに転換したいはずだ。森林や動物を守りたいはず。今この時が、将来振り返った時に『転機になったのはこの年だった』と思い出す時だ」。


<解説>結局この計画は現実的なのか?――デイビッド・シュクマン BBC科学編集長

最悪の地球温暖化へのカウントダウンが加速したようだ。深刻な損害をもたらす影響はもはや、今世紀の後半という遠い地平線の彼方にあるのではなく、不快なほど近いように思える時間内にある。

同様に、報告書で示された気温上昇を防ぐ「方法」はすべて、難しい決断を遅らせるわけにはいかないことを示している。

  • 21世紀中盤までに化石燃料の使用中止
  • 石炭の段階的な使用中止は、これまで提案されていたよりずっと迅速に行う
  • 膨大な土地を森林に当てる

ショッキングな内容だ。どうしようもないほど非現実的で、気候科学者の幻想だと言う人も中にはいるだろう。それで、この中で妥当なものはあるのだろうか? 一方では、世界経済は炭素に頼り、重要な活動は炭素に依存している。もう一方で、風力タービンやソーラーパネルの価格は暴落し、ますます多くの国やカリフォルニアなどの州が、意欲的な環境目標値を設定している。

最終的に、政治家は難しい選択肢に直面するだろう。報告書に概要が記された革新的な変化を急いで行う必要があると有権者を説得するか、科学者が間違っていると言って無視するかだ。


(英語記事 Final call to save the world from 'climate catastrophe'

提供元:https://www.bbc.com/japanese/45794174

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