2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年10月17日

 Brexitを如何なる形で処理するにせよ、それは西側同盟を害しない形でなければならない。ロシアや中国が国際秩序を損なうことに何の痛痒も感じない行動に出ている時にあって、西側同盟の弱体化を招く事態は避けるべきである。上記論説の言う通り、Brexitは経済の問題にとどまらず、それは不可避的に西側の安全保障の関係にも重大な係わりを持つ。強い立場にある者、この場合はEUが雅量を欠いては西側同盟を維持しては行けないと思われる。EUが英国いじめをしているというパーセプションが米国で生じているとすれば、筆者のミードがいうように米国のEUに対する見方に否定的影響を持つであろう。

 仮に、no-deal Brexit となれば、英国は手切れ金を払わないであろう。英国とEUの関係はささくれ立ったものとなる。そうなれば双方の関係を律する協定の交渉に入り得る筈もない。双方は無協定時代に突入する。何とも後味の悪いBrexitの幕切れは、不可避的にNATOをはじめ安全保障の協力関係にも陰を落とし、西側同盟を傷付ける。そういう危険性を招いた責任は専らEUの側の傲慢な振舞いにあるとミードは観察しているらしい。ただ、交渉が難航する大きな理由は英国の側にもあると言うのが公平であろう。

 状況認識がこの論説の指摘の通りだとすれば、西側同盟の盟主としての米国が英国とEUの双方に何等かの働き掛けを行っていなければならない。トランプ政権でなければ、当然そういう行動に出ていたであろう。しかし、トランプ大統領にはおよそ関心がない。関心がないどころか、Brexitは強硬離脱で構わないといわんばかりの態度である

 日本は、Brexitが円滑に進み、進出している本邦企業のビジネスに極力悪影響を持たない形となるよう英国に要請して来た。しかし、事ここに至って英国に働き掛けることの意味は殆どない。主として働き掛けるべき相手はEUである。残された時間はないが、可能であれば、経済の観点のみならず、西側同盟の結束維持の観点に立ってEUに柔軟な対応を要請することが検討されて良いのではないだろうか。

  
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