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2018年10月30日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

書類を読んだだけで門前払い 
問われるのは家裁の独断なのに

 案の定2015年10月、家裁立川支部は、百沢の申し立てを却下した。つまり審理にも当たらないとして門前払いする審判を下した。審判理由の抜粋は次の通り。

――一件記録によれば、弁護士Mは成年後見人として、成年被後見人の通帳の出入金の管理や売却不動産に関する事後処理等の財産管理について誠実に職務を行い、裁判所に対し、毎年後見事務報告書を提出していることが認められる。また、豊島区のマンション売却については、申立人が、買主との交渉を主導して行う中、弁護士Mが、成年被後見人の財産及び収支状況を踏まえて売却の必要性や上記不動産の共有者である申立人の意向等を勘案して売却に至った経緯が認められ、成年後見人として不適切な後見事務を行ったとはいえない。さらに、福島県いわき市所在の土地の売却については、申立人が、財産管理権のない成年後見人であるにもかかわらず、申立人名義で不動産業者との間で仲介契約書を締結して売却手続きを進め、これを弁護士Mに説明したところ、Mが、申立人に対して、売買契約書や仲介契約書については、財産管理権を有する成年後見人であるM名義で作成する必要があることを説明したため、申立人が憤慨し、売却手続きが進まず、本件申立てに及んだという経緯が認められる。前記経緯の中での弁護士Mの説明は適切であり、その対応が不正とはいえないし、その他、申立人の言い分や、本件全記録を精査しても、成年後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由は認められず、成年後見人を解任しなければならないような事情は見当たらない――


 講評しよう。この案件は、07年に家裁八王子支部が事務分掌と称して、〝お見合い〟の機会さえ設けず選任した財産担当成年後見人、弁護士Mに対して、身上監護担当成年後見人の百沢が、一緒にやっていけないと訴えているという内容である。仕事のパートナー選びは本来とてもデリケートな配慮が求められる上、このパートナーは百沢家の財産から報酬を得るのである、それなのに家裁は百沢力の意向を顧慮せず選任したのであり、本質は家裁の独断こそが問われているのだ。

 その家裁裁判官であるならば、「一件記録によれば」のように書類だけに頼るのでなく、面談して耳を傾け問題の本質を見極めるべきである。ましてや、弁護士と一般人の主張が対立しているのであれば、司法受けする書面を作成する能力には格段の差があり、その格差を考慮しなければならない。実情を聴取することもなく門前払いなど不埒千万である。

 さらに、百沢が解任を申し立てるに至るまで家裁は何をしていたのかという疑問が浮上する。審判理由で書いてあるMに対する評価がすべて正しく「成年後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由は認められない」としても、相方が耐えられないと言っているなら、無理やり分掌させても事務がうまくいくはずがない。漫才コンビでもボーカルグループでもそうである。

 不動産取引をめぐる2人の争論についても、どちらの言い分が正しいのか判別するよりも、両者の間に信頼関係が構築できない実情を直視し、その打開策を求めるのが建設的な対応だと考えるが、家裁はそうした選択をしなかった。

 成年後見事務を分掌させた家裁は、身上監護担当の百沢を監督するばかりでなく、財産管理担当の弁護士Mをも監督しなければならないはずだ。例えば「お見舞いの経費を百沢に、きちんと渡しているのか」とMに尋ねたことが、家裁にはあったのか。家裁は調停離婚も担っており夫婦関係を知悉するプロのはずだ。その特技を援用し審尋の段階で、双方の話をよく聞き、改善できる点があれば忠告しなければならない。駄目ならパートナーを選び変えれば済む話だ。弁護士は今、人余りである。

 こう見てくると、家裁の無為無策が、不要な訴訟事に至らせたと考えざるを得ず、一般の民事・刑事裁判をまねたように、Mの地位保全のため適格事由を構築するのは論議の空回りで、税金の無駄遣いである。

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