Washington Files

2018年10月15日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 「良識の府」として相応の威厳を保ってきた連邦最高裁が、かねてから共和党偏重の立場を鮮明にしてきたフレッド・キャバノー新最高裁判事の就任をきっかけに「中立公平の原則を放棄した」として厳しい批判にさらされている。民主党 vs 共和党の政党対立の構図が司法の場にそのまま投影され、「議会に続いて司法までがトランプ・ホワイトハウスの軍門に下った」との見方も強まりつつある。

 「上院はキャバノー承認を見合わせるべきだ」

 去る10月3日付けニューヨーク・タイムズはこんな見出しで始まる前代未聞の寄稿文を掲載した。キャバノー氏の就任がいかに不適切であるかを切々とアピールする内容だったが、上院本会議での最終審議直前に出されたこの声明の末尾に全米各地の大学の2400人以上もの法律担当教授が、所属大学名を添え一同に連名記載されたことから、ワシントン政界で大反響を呼び起こしたことは言うまでもない。

8日ホワイトハウスで行われたカバノー氏の就任式(REUTERS/AFLO)

 その中には、東海岸のハーバード、エール、プリンストン各大学、西海岸のカリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学、中西部のシカゴ大学、ワシントン大学(セントルイス)、南部のテキサス大学、バンダービルト大学など一流大学の名だたる教授陣もずらりと名を連ね、事実上、アメリカを網羅するかつてない法律専門家集団による画期的意思表示でもあった。

 キャバノー氏についてはすでに報じられてきたとおり、欠員となっていた9人目の最高裁判事としてトランプ大統領に指名されたものの、その後、上院司法委員会の承認審議などを通じ、高校生時代および大学時代に女学生に性的暴行を働いたとの疑惑が持ち上がったほか、疑惑調査自体を「民主党の陰謀だ」などと声を震わせ党派性をむき出しにしながら反論したことなどから、品位、人格に対する批判が高まっていた。

 しかし、本会議での最終審議では、賛成50、反対48のまれにみる僅差で承認された。そして賛成は民主党議員1人のほかは全員が共和党議員、反対は共和党議員1人を除く全員が民主党議員となり、民主党 vs 共和党の対立の構図がそのままくっきりと浮かび上がる結果となった。

 連邦最高裁判事の上院審議をめぐって、賛否の差がわずか2票というきわどい結果は、
1881年以来初めてといわれる。

 しかし、それ以上に異例だったのは、前述したとおり、全米の法律専門学者のかつてない圧倒的多数が異議を唱えただけでなく、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズなどの有力紙のみならず、セントルイス・ポスト・ディスパッチ(ミズーリ)、マイアミ・ヘラルド(フロリダ)、コロンバス・ディスパッチ(オハイオ)、デンバー・ポスト(コロラド)など地方紙の多くも「承認反対」の社説を掲載、また、最終審議直前にCNNが実施した世論調査でも「不支持51%」が「支持41%」を10%も上回っていたという事実だ。つまり法曹学会、マスコミ界、そして民意にも逆らう形の決着だったわけで、まさに最高裁人事が完全に政争の具とされた、象徴的イベントだったといっても過言ではない。
 
 ここで参考までに、過去の最高裁判事の上院審議内容をいくつか振り返ると、1987年、レーガン大統領(共和党)が指名したロバート・ボーク判事をめぐる上院承認審議では、「支持42」に対し「反対58」で否認された。「反対」が8人にも上ったのは歴史的とされ、その中には共和党議員が6人、逆に「支持」の中には民主党議員2人が含まれており、両党議員間で支持と反対が交錯する審議結果だった。

 しかし、同大統領がこの後釜に指名したアンソニー・ケネディ判事についての審議では「支持97」「反対0」で、両党全員一致の承認となった。

 2005年ブッシュ共和党政権下で指名されたジョン・ロバーツ判事の審議の場合、「賛成78」「反対22」で承認された。「支持」の中には、民主党議員22人も含まれていた。それだけ、超党派による公正な審議結果であっただけに、その後も国民の広い支持を集め現在、首席判事を務めている。

 2009年、オバマ政権(民主党)で指名されたソニア・ソトマイヤー判事の場合も、「賛成68」「反対31」で承認されたが、「賛成」の中には共和党議員9人がいた。

 このように、過去の最高裁判事の承認審議では、両党が激しい論戦を交わす通常の議会審議とは異なり、党派を超え、その適否についての真剣な意見のやり取りの末の結論となるケースが多かっただけに、結果的に最高裁の威厳と品位をそれなりに維持してきたといえよう。

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