使えない上司・使えない部下

2018年10月25日

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吉田典史 (よしだ・のりふみ)

ジャーナリスト・記者・ライター

ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年から、フリー。
主に、人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。『悶える職場』(光文社)、
震災死』『あの日、「負け組社員」になった…―他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)『封印された震災死』(世界文化社)など。

ミスター高橋(高橋輝男)

 前々回、前回、今回の3回連続で、新日本プロレスのレフリーやマッチメイカー、審判部長を務めたミスター高橋さんに取材を試みた内容を紹介したい。今回は、その3回目で、最終回となる。

 高橋さんは引退後の2001年、『流血の魔術 最強の演技―すべてのプロレスはショーである』 (講談社) を書き著したことでいちやく話題になった。プロレスは、試合をする前に試合展開や勝ち負けが決まっていること、さらには流血試合の真相まで詳細に書かれた内容だ。当時、「プロレスの裏を暴露した」という批判もあれば、「プロレスを新たな見方で観戦できるようになった」という肯定的なとらえ方もあった。

 いずれにしろ、その後も読まれ続け、今なお、話題の書となっている。1970~90年代の新日本プロレス黄金時代を支えたアントニオ猪木選手、坂口征二選手、藤波辰爾選手、長州力選手らの試合を数多く裁いたレフェリーが語る「使えない部下・使えない上司」とは…。

Q 『流血の魔術 最強の演技』(講談社)が発売されてから17年が経とうとしているのに、今なお、日本人の現役の選手は試合の裏側のことを公の場では詳しくは言わないようです。たとえば、ある選手がTwitterをしています。ファンと思える人が、「プロレスって、試合をする前から、勝ち負けが決まっているんですよね?」「ショーですよね?」とからんでいました。それに対し、選手は「俺たちは、こんなに厳しいトレーニングをしているんだ」と答えていたのです。事前に勝ち負けが決まっていることには、答えていませんでした。

高橋:その選手の思いは、私なりにわかるつもりです。そんな質問をさせるような日本のプロレス界に誤りがあるのです。「プロレスはショービジネス」ときちんとカミングアウトしないから、選手が苦しむのです。

さらにいえば、私は現役の選手がTwitterなどをしていることにも疑問を感じます。選手のほうから、ファンのそばへ寄っていくことはするべきではないのです。近寄るから、そんな質問を受けるのでしょう。それは、ファンサービスとは違います。プロレスラーは特殊な職業柄、謎が多いほど、ファンをよりひきつけますよ。私が子どもの頃は、プロレスラーというのは遠い存在でした。怖くて、近寄りがたいのです。

プロレス小僧だった頃、東京体育館での試合で力道山が試合を終え、花道を引き上げてくるときに、「命と引き換えでもいいや」と思い、ガードしている若手選手の間をすり抜け、力道山の汗びたびたの体を触ったんですよ。とにかく怖かった。だけど、殴られることはありませんでした。汗びたの手を洗ってしまうのが、もったいなくて、もったいなくて…。なめましたよ…(笑)。俺と同じで、しょっぱいやと思ってね…。

Q プロレスがショーであったとしても、選手はとても強いと私は思っているのです。そうでないと、あんな試合はできないはずです。ここに、プロレスの奥深さがあると私は思っているのです。

高橋:新日本プロレスの選手のほとんどがすごい練習をしていました。道場の中は、真剣勝負です。選手たちは、リングの周りではバーベルやダンベルを使い、ウエートトレーニングをしています。リングへ上がれば、シュートの練習ですから、文字通り、真剣勝負になります。技をかけるときに手加減なんてしません。相手の選手が、「ギャー」と悲鳴を上げるまで関節技で締め上げることもあります。タップをして「まいった」をしたら、そこで必ず、止める。プロですから、(相手の選手に)けがをさせるようなことはしません。

Q だから、試合のときにあのリアル・ファイトができるのかもしれませんね。練習で真剣にシュートをしているから、どこまではよくて、どこからが危ないのかが体でわかる。どのようにすると、本当に痛いのかも、わかる。

高橋:練習で真剣勝負をしていないと、あれほどの激しい試合にすることはできないと思います。私が現役であった時代に比べると、今の選手は比較的、小柄な人が増えてきましたが、「こんなに小さいならば、怖くない」なんてなめてかかり、攻撃をしたら、ひどい目に遭うはずです。プロレスの選手が本気を出せば、あっという間に相手の腕へし折ることくらい簡単にできます。

私がレフリーをしていた頃、地方の試合である外国人選手が、地元でケンカが強いと言われていた男にからまれ、殴りかかってきました。その選手は自分の身を守るために止むを得ず、男の腕を軽くねじり上げたのですが、たった数秒で折れてしまったのです。

ジョバー役(やられ役)であっても、いざ、真剣に闘えば、めっぽう強くないといけないのです。隠し持つシュートの強さは、絶対に身に付けておかないといけない。特に日本人選手が海外で試合をするときは、それが必要になります。アメリカ人選手は体が大きくて、腕力もあります。だから、日本人選手をなめてかかってくることもたまにはあるのです。

たとえば、試合中にいたずら心で腕とか、首を極めてくるのです。そのままにされていたら、ケガをしてしまいます。そこで「なめるな!」とすぐに返せる力がないといけない。逆に関節技をびしっと極め返すと、アメリカ人選手は「こいつ、シュートをちゃんと身に付けているんだ」と思い、それ以上のことをしてこない。

その後、アメリカ人選手たちの間で「あの日本人は背は低いが、シュートは強い」と早いうちに噂で伝わるのです。すると、ほかのアメリカ人選手はもう、なめたようなことはしなくなります。そのような強さを持ってないと、務まらない社会なのです。強くないと、アメリカに限らず、日本でもなめられっ放しになります。

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