オトナの教養 週末の一冊

2018年10月26日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

(dottedhippo/iStock/Getty Images Plus)

 10月下旬、宇宙開発に関する興味深いニュースが相次いで飛び込んできた。

 まず、南米・フランス領ギアナの宇宙センターで、日本と欧州の宇宙機関が開発した水星探査機2機が欧州アリアンスペース社のアリアン5ロケットで打ち上げられた、というニュース(10月20日)。

 読売新聞によると、打ち上げに成功した2機は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した「みお」と欧州宇宙機関(ESA)の水星表面探査機。地球と金星、水星の重力を利用して減速し、方向を変えながら約90億kmを飛行して、2025年末に水星を回る軌道に入るという。

 日本の惑星探査機の打ち上げは、2010年の金星探査機「あかつき」以来。水星の本格観測は、米国のマリナー10号とメッセンジャーに続き、3例目となるそうだ。

 もう一つのニュースは、米国が建設を計画している月上空の宇宙基地の費用について。JAXAの試算では、建設費が3100億円~4200億円になることがわかったと、読売新聞が報じた(10月24日)。

 米航空宇宙局(NASA)は2026年頃の完成を目指しており、日本も参加に向けた検討を進めている。JAXAは、長期滞在に必要な水の再生や二酸化炭素の除去技術などで貢献し、日本人宇宙飛行士の月面探査の実現につなげたいという考えを示した。負担額は明言しなかったそうだが、参加の是非や目的、費用負担などをめぐっては今後、国民に開かれた議論が必要だろう。

「宇宙への移住」という思考実験

 こうしたニュースに接すると、いよいよ宇宙移住に向けての準備をしなくては、とわくわくする。惑星探査や月面探査の段階から「宇宙への移住」だなんて飛躍し過ぎでは、と思われるかもしれないが、今から考えておくべきことだと私は思っている。そんな期待にこたえてくれたのが、本書である。

 本書は、人類が地球をあとにして他の星へ移住する、すなわち「宇宙に出て行く」としたら、どんな社会的課題があり、どんな意義があるのかを「宇宙少年だった」科学政策論の専門家が至極真面目に思考実験したものだ。

 思考実験というと、むずかしそうと身構えられるかもしれないが、とんでもない。アシモフから『攻殻機動隊』まで、世界と日本のSFやアニメ作品に描かれる宇宙像を引きつつ、読者と居酒屋談義でもする雰囲気で議論を進めていく。

 くすっと笑ったり、うなずいたり、「いや、違う」と突っ込んだりしながら、生命科学や医学、遺伝子工学、ジェンダー、人工知能、ロボット工学、人類の進化といったテーマに、宇宙からの視点で斬り込む。

 一つひとつの課題を考えるための技術的・社会的背景や思想、法体系などを噛み砕いてしろうとにもわかりやすく提示してくれるので、読者は学びつつ、自分の頭で考えることができる。これほど知的でスリリングな思考実験があっただろうか!

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